袋小路の残像
「あすなは人の顔を覚えることができない」
このことがあすなの頭の中にずっと去来している思いだった。
「覚えられないんじゃなくて、忘れないようにしようとする気持ちにブレーキがかかっているんだ」
と思うと、勢いよく指を回しているその手が急に止まってしまった気がした。
その時がいつの何時何分だったのか、あすなは知る由もない。
その手が時を戻しているとすると、遊園地に出かけたあの日になるのだろう。そこにどんなターニングポイントがあったというのか、きっとあの時のピエロのみが知っているに違いない……。
( 完 )
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