北へふたり旅 51話~55話
北へふたり旅(54) 北へ行こう⑩
「滅多なことを口にしてはいけません。
スマホで離婚する時代です。
こんなの当たり前。けしてめずらしい光景ではありません」
「スマホで離婚?」
「ご飯を食べているときも、一緒に出かけているときも、
ずっとスマホを手放しません。
話しかけても上の空。
そんな状態に嫌気がさして、離婚へ発展するそうです」
「そこまで四六時中、スマホを見る必要があるのか?。
いまの若者たちは」
「暇なとき、何をしたらいいかわからない人が増えてきたからです。
暇つぶしでSNSやゲームをはじめた人たちが、いつのまにか、
スマホを手放せなくなる。
スマホ依存症のきっかけはそんな風にはじまるそうです」
スマートフォンには、中毒性がある。
車や自転車の運転中でもスマホに触る。スマホがないとなぜか落ち着かない。
会話中でもスマホをいじる。
風呂場やトイレにまでスマホを持っていく。
夜もスマホをいじる。睡眠時間が不足して翌朝、思うように起きられない。
こうなるともう完全なるスマホ依存症。
全員がスマホ中毒とは限らない。
しかし座席に座っている全員がスマホ片手に、うつむいている光景は
異常すぎる。
いや。立っている乗客でさえ、片手で器用にスマホを操作している。
県境を越えた足利駅あたりから、夏休み前の高校生がふえてきた。
グループで乗りこんできた女子高生たちがいた。
ひとりが耳にイヤホンをしている。
「見て。最新の完全ワイヤレス。しかも防水タイプのイヤホンよ」
「いいわねそれ。で、どうなの?。
ドンシャリ?。かまぼこ?。それともフラット?」
ドンシャリ・かまぼこ・フラット・・・
なんの話をしているんだ。この女子高校生たちは・・・
作品名:北へふたり旅 51話~55話 作家名:落合順平