北へふたり旅 51話~55話
途方に暮れている様子を見て、駅員が顔を出した。
「どうされました?」
「宇都宮まで行きたいのですが、改札がわかりません。
どうしたらいいですか」
「行きは券売機で、宇都宮までの切符を買ってください。
帰りは宇都宮駅でスイカを買うことができます」
「こちらでは買えないのですか?」
「大きな駅か、みどりの窓口の有る駅ならスイカの券売機が
置いてあります。
当駅のようなへんぴな駅では、スイカは販売していません。
普通の券売機だけです。置いてあるのは」
なるほど。さすがローカル線のちいさな駅だ。
スイカ用の自動改札は有っても、かんじんのスイカがここでは買えない。
(なんだか無人駅から乗車するような気分だな・・・)
宇都宮までの切符を2枚買い、駅員に見せてから、ホームへ出た。
その間。高校生や会社勤めらしい人たちが、ピッと自動改札を通過していく。
電車は定刻でやって来た。田舎を走る電車は1時間に1本。
通勤通学のピーク時だけ2本走る。
時間が早いせいか、車内は空いていた。
立っている客は見えない。みんな黙りこんで座席に座っている。
静かすぎる。会話はまったく聞こえてこない。
それもそのはず。乗客全員の視線が、手元のスマホにくぎづけだ。
(なんだよ。静かすぎるとおもったら全員がスマホを見ているぞ。
どうなっているんだこの光景は。いまどきはみんなこうなのか・・・)
(しぃ~。珍しくありません。こんな光景。
上司とお昼ご飯へ行っても会話しないで、スマホを操作しているそうです。
いまどきの若い人たちは)
(それにしても異常すぎるだろう。
みんなうつむいて、ひたすらスマホを見ているなんて・・・)
(54)へつづく
作品名:北へふたり旅 51話~55話 作家名:落合順平