北へふたり旅 51話~55話
北へふたり旅(52) 北へ行こう⑧
「予行演習へ行きましょう」
7月の半ば。茄子の収穫が今日で終わった。
その日の午後。妻が電車に乗りましょうと言い出した。
「電車に乗る予行演習?」
「北海道行きの予行演習です。新幹線は宇都宮からでしょ。
JRに乗るなんて久しぶりですもの。
明日から暇になりました。いいでしょ、お出かけても」
たしかに明日からながい夏休みがはじまる。断る理由はとくにない。
「焼きそばが食べたいですねぇ。ひさしぶりに」
妻の出身は宇都宮。
宇都宮グルメといえば餃子が有名だが、焼きそば屋もおおい。
宇都宮焼きそばはキャベツ、肉、イカ、ハムがはいったもちもち麺の上に、
ちょこんと目玉焼きがのっている。
「そういうことなら本番の時間にあわせて宇都宮まで行ってみるか。
9:39発のやまびこ43号だから、7時台の両毛線に乗るようだな」
両毛線は群馬の高崎と、栃木の小山をつなぐローカル線。
上毛野国(かみつけのくに)の群馬と、下毛野国(しもつけのくに)
の栃木をむすんでいることからこの名前がついた。
わたしの住まいからの最寄り駅は、JR両毛線の岩宿駅。
駅名は日本に旧石器時代があったことを証明した、岩宿遺跡に由来している。
「乗り換えがおおいですからね、今回は。
ホップ・ステップ・ジャンプでようやく新幹線ですからね。
うふっ」
「東京駅まで2時間。途中の大宮駅でも1時間30分はかかる。
どちらも南下していくから、北海道とは逆方向になる。
おなじ時間をかけるなら横に移動したあと、北上したほうが
距離をかせげる」
作品名:北へふたり旅 51話~55話 作家名:落合順平