覚えがあるなら
「…ねえ」
その日の晩。
自宅の景冬君に、明夏さんから電話が掛かります。
「家に帰って鏡を見たら…私の口の横に 何故か 赤いものが付いてたんだけど」
「多分、ホットドッグのケチャップだろうな」
明夏さんは、声の温度を下げました。
「─ もしかして、気づいてたの?」
「まあな」
「何で、教えてくれなかったのよ!」
「背中を、叩かれたくなかったからだ」
「え?!」
「教えたらお前、『何で 付く前に教えてくれないのよ!』って 理不尽な理由で叩くだろ?」
しばらくの沈黙。
スマホから、小さな明夏さんの声が 漏れ出ます。
「ごめん…もう叩かない様にする。だから……次からこう言う時は………ちゃんと教えて?」
「判った」
「─ ひとつ、教えてくれるかな」
「ん?」
「ベンチでホットドッグ食べた後、ふたりで公園を歩いた時…景冬は恥ずかしくなかったの??」
「俺は、注目を浴びる原因が自分じゃなければ 気にしないタイプなんだ」