北へふたり旅 46話~50話
「自動車メーカの展示スペースなのに、ジェット機がおいてあります。
いつも思うけど違和感がありすぎますねぇ。この光景は」
通り過ぎるたび。妻は決まってこの言葉を口にする。
展示されているのは国産初の航空自衛隊の中等練習機、初鷹(はつたか)。
「終戦直前の昭和20年の8月7日。
日本初の純国産ジェット機、橘花(きっか)が初飛行に成功している。
その機体を中島飛行機が製作した」
「エンジンは?」
「ドイツから潜水艦で図面を運んできた、という話がのこっている。
たった1枚の紙きれを参考に、海軍の研究所が開発した」
「戦争はいろいろなものを後世に残しますねぇ」
「そうだね。そういえばスバルの水平対向エンジンの祖先は、
戦時中の空冷星型エンジンだ」
「空冷星型エンジン?」
「シリンダーを放射状に配列していくと、星の形になるだろう。
そいつにプロペラをつけると海軍の戦闘機ゼロ戦や、陸軍の隼になる」
「ゼロ戦や、隼の遺伝子を受け継いでいるの?。スバルは?」
「遺伝子はのこされたけど、戦後の再出発はすこしちがう。
解体された会社のひとつ、太田の富士産業がスクーターをつくった。
スクーターは敗戦直後、爆発的に広まった乗り物だ」
「スクーター?。
オードリー・ヘプバーンと新聞記者がローマで乗っていた、
あのスクーター?」
「そう。そのスクーターがスバルの戦後を救った」
(48)へつづく
作品名:北へふたり旅 46話~50話 作家名:落合順平