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北へふたり旅 41話~45話

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  Sさんが疲れたと、もういちどつぶやく。
男の辛口をいっきに胃袋へながしこむ。

 「働きつづけて最終的に6反の小農から、2町をこえる認定農業者になった」

 「認定農業者?」

 「おかみが認めた農業経営者のことだ。
 認定されると、金融や税制の支援を優先的に受けることができる」

 「いいことずくめです。疲れている場合じゃないでしょ?」

 「いや。走り過ぎた。
 百姓に休みは無いと言い聞かせながら、俺はここまで走りぬいてきた。
 農協の理事もやったし、農業委員も引き受けた。
 知ってるか?。
 農家がでかい家を新築するのは、自分の成功を誇示するためだ」

 「成功した証です。
 いいんじゃないですか。そのくらいの誇示は」

 「子育ての最中なら、50坪の家も狭くねぇ。
 だがよ。3人の子育てがおわったあと、住んでいるのは
 おれと女房の2人だけ。
 風呂とお勝手と居間と、寝るためのスペースがあればじゅうぶんだ。
 でかすぎる家は、いまや無用の長物だ」

 「それだけじゃないでしょ。Sさんが疲れている原因は」

 「よせばいいのにいきおいに乗り、ベトナム研修生を受け入れちまった。
 いくら募集しても、日本人の働き手はやって来ねぇ。
 そのてん経費はかかるが、海外からの働き手はいくらでもやって来る」

 「終活を考えはじめた・・・という意味ですか?」

 「後継ぎがいないんだ。
 俺もいつまで元気でいるかわからねぇ。
 店終いの時期と、その方法を考える歳になってきた。
 それを思うと、あたまが痛いのさ。おれも」

 「むずかしいです。終活は。
 わたしも居酒屋を20年やりましたが、花道があるうちの引退を考えました」

 
 「華のあるうちの引退か・・・百姓は無理だな。
 このまま生涯現役のままがんばりつづけるか・・・
 雀の涙の、国民年金じゃ食えねぇしな」
 

 「そういうことです。
 乾杯しましょ。これから先の人生に」

 「そうだな。
 医学に生かされて、人生100年の時代だからな。いまは・・・」
 
(45)へつづく