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北へふたり旅 41話~45話

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 北へふたり旅(43) 第四話 農薬⑨

 4回目の脱皮がちかづく。
この頃になるとカイコはずいぶん大きくなっている。
驚くほど桑を食べる。

 カイコは脱皮の度に動きがとまる。桑を食べなくなる。
蚕が動かなくなると、桑を切ってこなくて済む。
4回目のこの小休止を「お蚕休み」と呼んでいる。
ごちそうを作り、家族みんなで一休みする。
このさきで激戦が待っているからだ

 4度目の脱皮のあと、蚕の食欲は最高潮に達していく。
カイコが桑を食べる音が、ざわざわ、ぱりぱりとうるさく響く。
置いたばかりの桑が、見る間に消えていく。
この期間を「大桑」と呼び、猫の手も借りたいほど忙しくなる。
桑の枝の上にカイコが、もう丸見えになってきた。

 第五齢に達したカイコは、数日間、腹いっぱい桑を食べる。
やがて動きが鈍くなる。桑をたべなくなる。
虫体にクリーム色の透明感が出てくる。
この状態を「ずう」と呼ぶ。あたまを八の字に振り始める。
糸を吐く仕草だ。カイコが繭をつくる状態へはいったことをしめす。

 ここから時間の勝負がはじまる。
放っておくとカイコはところかまわず、繭をつくりはじめてしまう。
ずうを拾いあつめ、簇(まぶし)へ移動していく。
時間とのあらそいになる一家総出のこの作業を、
「おカイコ上げ」と呼んだ。