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短編集72(過去作品)

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 何となく表が緑色に見えるのは、やはりさっきの夢のせいであろうか?
 泰恵がいなくなって十日、私は一番思い出したくない、思い出してはいけないことを思い出したのだ。
 いまいち気分がすっきりとしない。まっすぐに歩いているつもりでも、気がつくと道の真ん中を歩いている。
 ふっと我に返った。
 「うわっ」
 叫び声が発せられたかどうか怪しいが、トラックのクラクションの音に掻き消されたかも知れない。
 私はこのまま病院に運ばれるだろう。
 手首から先が異様に熱い。手のひらの感覚が麻痺したかのようであるが、激しい脈を打っているのが分かる。
 遠くから声が聞こえる。
「こりゃひどい。手首がないぞ。緊急手術だ」
 だが、私には手首がないなど信じられない。
 このまま手術室に運ばれて手術を受けるだろう。まさか先ほどの血がこれほど早く役に立つとは思ってもみなかった。
 私はまたしても、緑色の血液の夢を見ている。それは私の血液で、輸血の管を通っているのだ。
 医者も看護婦も誰も知らない。いや、私以外誰も知らない“事実”なのだろう。
 私の腕は再生するであろう。それは手術によるものではなく、私の中に流れる爬虫類であるトカゲとしての本性で、である……。


                (  完  )








作品名:短編集72(過去作品) 作家名:森本晃次