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百代目閻魔は女装する美少女?【第五章】

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「ヤル気は十分のようだな。ではこの神がお相手をしよう。みんなは手を出すな。」
 美緒は眉をきりりと浮かびあがらせ、気合いの入った表情。
 絵里華本体はいつもの緑髪のフィギュアを弄んでいる。
 由梨は鏡を手に持って、自分の姿を『コワイ。でもセレブ、うっとり。』とやっている。
 万步はどこから持ってきたのか、涎を垂らしながら、スイーツカタログを読んでいる。
 他の3人はヤル気なく、美緒がひとりでバトルに集中する環境は始めから整っていたのである。
 政宗は刀を両手で持ち、大上段の構え。
美緒はお面を取る。
『フェイス・スプラッシュ!』美緒がそう叫ぶ。お面の下からは四方、八方、いや十六方、三十二方、もっと、もっとと言わんばかりに後光が差す。太陽を裸眼で直接見たような光。眼底検査からの復活に時間を費やした後。そこに現われたふたつの宝玉。青と赤の煌煌。もちろん宝石ではない。オッズアイである。どんな南海のマリーンブルーよりどこまでも蒼い透明感。限りなく薄い赤血球の珠。その両目で見つめられると吸いこまれてしまいそうな錯覚に陥りそうだ。まさに秘宝のごときゴッド・アイ。
一方、手にしたお面はゴムのように上下に長く延びたかと思うと、薙刀に変形した。頭には赤いハチマキを締めている。正面には黒い字で『戦』と書いてある。お面の紐がハチマキになったようだ。美緒は薙刀を斜めに持ち上げている。
「そちらの準備もいいようだな。では俺からいくぞ。」
 政宗ははゆっくりと美緒に近づく。美緒は二三歩後ずさりする。そこで両者は動きを止めた。お互いに間合いを見計らっているようだ。ふたりは3メートルは離れている。
「なかなかスキのないヤツ。政宗、お主かなりできるな。さすが、ジバクとはいえ、信長たち、そうそうたる武将の頭についているのもうなずける。久しぶりにガチンコのケンカが楽しめそうだ。神冥利に尽きるな。ワハハハ。」
「そんな余裕こいているヒマがあるのかな。やああああ。」
 政宗は興奮した猪のように突進し、その勢いに乗じた風とともに太刀を美緒に振りかざす。『ビューン』鋭い音が空気を斬る。美緒と共に、四次元空間を裂いたか?
「なかなかやるなお主。0.001秒遅れたら刀の錆になっておったわ。神に錆はにわわないがな。『寂より侘』だ。ワハハハ。」
 政宗のひと太刀を刹那、回避した美緒。まさに神技。
「美緒神。侘・寂は同義語だけど。」
 一応オレがツッコンだ。
『そうだな。さすが現役女子高生、いや男子高校生か。ってか、戦闘中に余計なツッコミを入れるな。』
 ここでもコミュニケーションはやはり糸電話。いちいち面倒である。
「スキあり!」
 政宗は美緒の後方から斬りつけた。
「ぐあああああああ~。」
『ブバババ~』背中から大量の血液が迸る。火事と間違えて発せられたスプリンクラーのように放血されている。
『バタン』。美緒は、上手に食べきれずに崩れるショートケーキのようにその場に倒れた。仰向けになっている。
『美緒神!』
 慌てて美緒に駆け寄るオレ。糸電話の糸が絡みそうだ。
『あれっ?これなに?ゴミ?』
 額には『信』の一文字。白目を剥いているのは信長。だらしなく開いた口からは白い泡が垂れている。実に見苦しい。
「変わり身の術とはなかなかやるな。貴様、できるな。褒めて使わすぞ。」
「神を褒めるとは冒涜であろう。一応、闘いの最中。大目に見てやろう。神の慈悲だ。」
「相変わらず強気な輩だな。その気概は認めるが、そこまでだぜ。」
 二人は二度、三度と刀、薙刀の刃を合わせた。『ガキッ』という金属音が深夜の空に響き渡る。政宗と美緒は呼吸を整えるためか、一旦距離を取った。そして、睨み合い。
 政宗は、美緒との距離を置いたまま、太刀を鋭く振り降ろす。切先から、強烈な光が発せされた。レーザー光線のようなものだろうか。すると、美緒のうしろにあった大きな墓が斜めにスライドして、轟音とともに滑降した。採石場の石切りのようである。
「すごい切れ味だな。そんな飛び道具であったとは。この神も恐れいった。ではこちらも軽くいくかな。」
 美緒は薙刀をふりかざして、政宗がいるのとは違う方向に回転させた。
「どこを狙っている。俺はここにいるんだぞ。」
「いや初めからターゲットは向こうにある。」
『ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ』。墓場中に広がる落雷音と思いきや、雨雲があるわけではない。たくさんの墓が切り倒されているではないか。しかも切られた墓は地面に落ちず、宙に浮いている。それは無重力状態であるかのように、ゆらゆらと舞っている。よく見ると糸に操られている。
「墓石に糸電話を使ってるんだ!」
 思わず声を上げたのはオレ。確かに糸電話は手元から無くなっている。糸につながれた複数の墓石たちは政宗に近づいている。そしてストーンサークルのように政宗を取り囲んだ。そして金属加工のように一気にプレス。
「はあはあはあはあ。焦るぜ。なんて野郎だ。危険すぎる。」
 政宗は間一髪、石地獄から脱出できたようだ。
「運のいいヤツだ。都の声で命拾いしたようだな。もっとも、命はすでにないんだろうが。」
「うざい野郎だ。口だけじゃないところが悔しいぞ。」
 政宗は額から滝のように汗を流している。前髪が濡れて固まってしまい、隠れていた左目が少しだけ覗いている。焦りの表情が見て取れる。美緒はその目の緩みを見逃さなかった。
「まだ闘るつもりか。その目が『負けた』と言っているぞ。」
 視線を政宗からそらしながら、美緒が語りかけるように話している。
「なんだと。まだこの通り、どこにも怪我すらしていないぞ。」
 政宗はゴリラのように両手を広げて、胸をパンパンと叩いている。
「仕方ないな。じゃあこれでどうだ。」
 美緒は薙刀を右手を高く上げて、掌で回して見せた。刃先から鋭い風が走ったかと思うと、政宗の前髪がはらりと落ちた。その直後、黒い眼帯もプチンと切れて、右目が白日の下に晒された、深夜ではあるが。その瞬間、絵里華、由梨、万步が色めきたった。
((イケメンの生表情が見られるどす。))「少しならその顔を拝んでやらないでもないわ。」「ちょっと素顔に興味あるな。」
「オレはみたくないな。男なんて見ても仕方ないし。」
 都だけはテンションが低い。
「そう落胆するな、都。あいつをよく見ろ。」
 政宗は兜を取る。その下からは黒く長い髪が艶やかに回りながら降りていく。トリートメントが行き届いているようだ。改めて見ると睫毛は長く、瞳には憂いが溢れている。
「まさか、政宗は女!美緒神はいつ気付いたんだ。」
 都はハトが豆鉄砲を食らったように瞠目して、美緒を見る。
 「正確には右目が見えた時だ。だが、その前に刃合わせをした時だ。女の力というのはいくら鍛えてもごまかせないものだ。都、お前とも戦闘をしておれば、騙されずに済んだものを。」
 シニカルに笑いながら、美緒はオレに答えた。他の3人はこんな感想。
((なんだ、おなごどすか。都はんと反対のパターンどす。))「やっぱり見る価値はなかったわね。」「イケメンではないにせよ、女子にモテそう。まっほは結構好み。」
 勝手なことを言っている。政宗退治は誰がやったのか。