響くがままに、未来 探偵奇談22 後編
「うそ!この野良ちゃん、まじで全くヒトに懐かないのに!きみすごいね」
青年が驚いている。黒猫は梨絵の手に鼻先をこすりつけていた。
「キャン!」
ムサシが黒猫に近づいてヒト鳴きすると。
「シャアァーッ!」
「キャワン!」
邪魔をするなと言わんばかりの強烈な猫パンチがムサシの顔面にヒットし、ムサシは梨絵の背中に隠れてしまった。
「ちょーつえーこの猫~!」
青年がけらけら笑っている。黒猫は梨絵を一瞥したのち、フイと顔を背けて再び歩いて行ってしまった。がさがさを草をかき分けていく猫を見送りながら、梨絵はどうしようもなく心が揺さぶられていることに気づく。
――生まれ変わったら猫になりたい
わたしに、そう言った人がいた。思い出せないけど、絶対にいた…。
「…大丈夫?」
青年の優しい声に顔を上げた。こちらを見て、穏やかな顔で微笑んでいる。梨絵の動揺や不可思議な感覚までをも見透かしているかのような、微笑みだった。いいんだよ、わかっている、とでもいうような。
「うちのじーちゃんが、ちゃんと餌とかやってるみたいだから、まだちっちゃいけど逞しく生きていけるよ。また会いに来てあげて」
作品名:響くがままに、未来 探偵奇談22 後編 作家名:ひなた眞白