響くがままに、未来 探偵奇談22 後編
「そうなんです…しかも女の子なのに、ムサシなの」
――あれ?
どうしてこの名前になったんだっけ…。何か理由があったはずなのに、思い出せない…。
梨絵は不可思議な感覚に捉われる。自分がつけたのだっけ、それとも家族?メスのチワワにこんな名前をつけるなんて、自分の感覚ではない違和を感じる。
――もっと賢そうな名前にしたら?
誰かの声が、耳の奥ではなく胸の奥で聞こえた。梨絵はぎゅっと胸元を押さえた。何だろう、この感覚。喪失感のような…。
「どうしたの?」
青年がムサシを抱いてこちらを不思議そうに見ている。
「あ、すみません…何だか、不思議な感じがして…ここに来たら、自分が何か大切なことを忘れているような感覚がして、急に」
おかしなことを言ってしまったとすぐに後悔した梨絵だが、
「それは君の中に、大切だった誰かが眠っているからだよ」
「え」
青年は笑う。
「忘れているのではなく、思い出せないだけ。もらった言葉や温かさは、脳でなく心に残るんだ。喪失感とか、時折感じる不思議な感覚は、その大事だった誰かとの記憶の断片」
「…思い出せない、だけ…?」
作品名:響くがままに、未来 探偵奇談22 後編 作家名:ひなた眞白