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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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黄昏クラブ

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 クラスの他の生徒たちは、まだ学園祭の準備に奔走している。でも、私にはもうやるべきこともない。部活と違って、クラス出展は任意だ。今年は、最初こそ何かやろうということで話し合ったものの、結局意見がまとまらないのをいいことに、成り行きでコスプレ喫茶をやることになってしまっていた。
 これ以上、部室にいても仕方ない。何もやることもないのだし。だが、それはいつものことだったはず。そもそも何かの目的をもって部室に来ていたことなんて、なかった。学園祭の準備が始まって、仮初めにもようやく目的ができただけだったのだ。私は、私の時間を得たいからこそ、この部室にこもっていたのではなかったのか。ならば、目的などどうでもいいことではないのか。私は、この部室で静かな時間を過ごすことを至上としていたのではなかったのか。
 とは言うものの、明日は学園祭だ。私用で部室を使っていたことの方が、そもそも間違いなのだ。だからと言って、気を引き締めるつもりなどない。そんなことは無用だ。去年もそうだったが、学園祭の時の部室ほど、だらけた雰囲気に満ちているものはないのだから。
 二年生の後輩が部室に来て、明日のシフトについて聞いてくる。私はシフト表のプリントを渡して、時間厳守を告げただけだった。彼女もそれ以上のことを聞きたくもなかっただろう。それほど熱心なら、これまでにも部室に顔を出していたはずなのだから。
 もう、やることもない。私は図書室から借りてきた本を開く。
 この、本を読むということだけが、本来の文芸部としての在り方なのだろう。それ以外に、文芸部の存在理由があるのだろうか。
 さすがに学園祭前日ともなれば、廊下を行き交う生徒もそこそこはいる。談笑しながら通り過ぎる声が、扉を閉めていても静かな室内にも届いてくる。ひときわ賑やかな一団が行ってしまうと、またもや静寂が戻ってくる。
 全開の窓から風が入り込み、時折カーテンを揺らす。
 いつもとは違う位置に座っているせいか、室内の様子が違って見え、何とはなしに新鮮な心地になる。
 柔らかな風のせいで、私はいつの間にか居眠りをしてしまっていた。目が覚めたのは、膝から滑り落ちた本が床で音を立てたせいだ。
「私ったら……」
 床に手を伸ばして本を拾い上げ、軽くはたいて汚れを落とした。時計を見ると、五時少し前だった。見回りまでは、まだ三十分以上ある。それに、今日は本番前日、去年の見回りは六時過ぎだった。過疎部とは違い、本格的にやろうというところは前日でもまだ準備が間に合わなかったりするからだ。
 時間はたっぷりある。続きを読んでもいいのだが、私は本を机に置いて窓辺に寄った。教室にはエアコンがないので、人のいるところは窓が開いている。あちこちからざわめきが聞こえてくるようだったが、あながち気のせいでもないだろう。
 角材を二人がかりで担いでいる男子生徒がいる。さっき手洗いに行ったときには、中庭のモニュメントは既に完成間近だった。だとしたら、あの角材は何に使うのだろう。あと少しで本番に間に合うのだろうか。
 一時間半という時間は、何かを本格的にやろうとするには短すぎ、ぼんやりしているには長すぎる。
 まあ、いいか――
 私は窓辺を離れた。
 本を読む気も失せ、鞄にしまう。
 たまには早く部屋を空けて、見回りの先生を驚かしてやろう。もっとも、そんなことで驚くのは三富先生くらいだろうけれど。
 廊下に出ようとすると五人ほどの男子グループと鉢合わせして、思わず立ちすくんだ。彼らはそれぞれ段ボール箱や棒を持って、私のことなど気にも留めていない様子でふざけ合っている。それを見て、私は少しばかり寂しさを覚えた。誰もが浮ついている学園祭前日に、いったい私は一人で何をやっているのだろう。
 いや、一人ではない。
 彼らの姿が見えなくなると、廊下に誰もいないことを確認して、古典部の扉に手をかけた。音を立てて開いた扉に、素早く身を滑り込ませる。べつに悪いことをしているわけでもないのに、人に知られるのが何となく後ろめたいように思えたからだ。
「こ、こんにちは」
 いつものように窓辺の椅子に掛けている吉井のどかに声をかける。
 彼女は小首を傾げるようにして、私に微笑みかけた。
 そう、私以外にも学園祭前日に一人でいる者がいるのだ。
「なんだか、今日は騒がしいわね」
 彼女が言う。
「前日だからね」
「そう、明日なのね」
「まさか、あなた知らなかったの?」
「だって、私には関係ないもの」
「関係ない、か……」
 彼女の、妙に冷めた態度に拍子抜けしながら、私も腰を下ろす。「あなたは、明日も一日中お留守番?」
「そうね、たぶん」
「たぶん、なのね」
「だって、確約できないもの」
「それは、そうね」
 私は言う。「あなただって、学園祭楽しみたいだろうし」
「……」
「どうしたの? まさか、自由登校だからって、休むわけじゃないでしょ?」
「休みはしないわ。それに、私は休めない」
「どういうことよ」
「そのままの意味よ」
「ふうん。じゃあ、明日は会えないかもしれないんだ」
「会いたいのなら、会えるわ」
 今度は、私が黙る番だった。明日は、いないかもしれない。でも、会いたけりゃ会える。いったいどういうことだろう。
 まあ、いいか。彼女が謎めいた言い方をするのは、今に始まったことではないのだし――。
「ねえ」
 私は訊ねる。「よかったら、明日一緒に回らない?」
「回るって?」
「学園祭よ。大したものはないだろうけど、たこ焼きとかクレープとかあるよ」
「私は、いいわ」
「せっかくの学園祭なのに?」
「誘ってくれるのは有難いけれど」
「やっぱりお留守番だから? でも、いないかも知れないって言ったよね? だったら、少しくらい空けたっていいじゃない」
「ごめんなさい」
 彼女がうつ向く。
「そう……」
 私は、肩を落とした。「そこまで言うなら、無理には誘わないわ」
「ごめんなさい」
「いいのよ」
 本当に申し訳なさそうな彼女を見て、私は言った。「よくは分からないけど、事情があるのね」
 しばらく、お互いに口を開くこともなく時が流れる。
「あなた、準備の方はもういいの?」
 彼女が訊ねる。
「うん。なんとか間に合ったわ」
「そう、それはよかったわ」
「色々あったけどね。これでやっと落ち着けるわ」
「文集、だったわね」
「そう。なかなか原稿が集まらなくて」
「その文集、ぜひ読んでみたいわ」
「そう?」
「ええ。あなたの頑張りの結晶でしょ」
「まあ、そう言ってくれると――」
 私は腰を浮かす。「じゃあ、取ってくるから、少しだけ待っててくれる?」
「ええ、いいわ」
 古典部室を出て、隣の文芸室へ急ぐ。冊子を一冊取り、部室を出たところで見回りの三富先生に出会った。
「あら、今帰り?」
「え? ああ、そうです」
「今日は、注意される前に帰るのね」
「はあ……」
「それ、出来上がった冊子?」
 先生が私の手元を見る。
「ええ」
「一部、貰える?」
「発売前ですよ」
「ずいぶんとお固いのね」
「だって、会計が狂いますから」
「ま、そっか。じゃあ、明日にでも」
「はい、よろしくお願いします!」
作品名:黄昏クラブ 作家名:泉絵師 遙夏