北へふたり旅 36話~40話
日本の種子産業の規模は、世界9位(2012年)。
日本企業が占めている世界シェアは、およそ10%。
国内の種苗メーカーが穀物の分野に本格的に参入しなかったのは、
戦後につくられた種子法があったからといわれている。
「いまのままでは日本生まれのコメが、スーパーから消えることになる」
「ホントですか!・・・」
「ありうる話だ。
ひとつの品種が開発されるまで10年。増殖に4年がかかる。
各地に特徴のある、おおくの銘柄米が存在する。
そうした米を手ごろな値段で口にできたのは、費用を
税金でおぎなってきたからだ」
「そうした保証が今後なくなる、ということですね」
「種子法が廃止されたいま、大企業が進出してくるのは目に見えている。
「みつひかり」は三井化学が開発した、F1水稲品種の
ハイブリッドライス。
「つくばSD」を販売している住友化学はすごいぞ。
タネや肥料を農家に売り、栽培まで指導している。
収穫されたコメは全て買い取る。
栽培前に契約を結んだコンビニへ販売する。
コメの流通の「川上」から「川下」まで、一貫して支援する
事業に力を入れている。
中食や外食の広がりで消費者の需要が多様化するなか、「コメビジネス」の
新たなモデルとなるのだろう。
「とねのめぐみ」は、日本モンサント社が販売している。
これらはいずれも多収量の業務用米だ」
日本の米はそのうち、こうした大企業の品種に取り換わっていくだろう。
農家はできれば従来の品種を作り続けたいと考えている。
しかし都道府県が従来種の生産をやめれば、種子が手に入らなくなる。
しかたなしに大企業の種子を買わざるをえない。
種子メーカーは莫大な開発費を回収するため、戦略を立てる。
野菜の世界では「F1種」が定番化している。
一世代に限り作物ができる種だ。
自家採取はできない。
したがって農家は、毎年企業から種を買わなければならない。
コメの世界に、そうした流れが近づいている。
「種子ビジネスに乗り出しているのは、化学企業が中心。
農薬と化学肥料をセットで売り、契約により、作り方まで指定している。
とうぜん種の価格も企業側が決める。
公共品種の種子の、4倍~10倍がいまの相場。
公共の品種がなくなれば、農産物の値段が上がるのは必至だ。
そのツケはやがて、消費者が払うことになる」
(39)へつづく
作品名:北へふたり旅 36話~40話 作家名:落合順平