北へふたり旅 36話~40話
「発表している以上に長くかかるのですか?。
原発の廃炉作業というものは」
「最も廃炉作業がすすんでいる例がある。
英ウェールズ地方、トロースフィニッド発電所だ。
1993年から廃炉作業を開始して、すでに20年。
責任者は99%の放射性物質を除去したと説明した。
しかし。施設を完全に解体し終えるまで、
さらに70年を要すると言い出した」
「合計で90年!。気の遠くなるような年数じゃないですか!」
「使用済み核燃料は95年までに取り出された。
しかし圧力容器周辺や、中間貯蔵施設内の低レベル放射性物質の
放射線量は依然高いままだという。
そのため2026年、いったんすべての作業を停止する。
放射線量が下がるのを待つためだ。
再開するのは50年後の2073年。
廃棄物の最終処分などの廃炉作業の最終段階に、着手するという」
なんとも気の遠くなる話だ。
同原発はこれまで20年を費やして廃炉作業を行ってきた。
しかし最終処理まで、さらに70年がかかるという。
合計で90年の歳月だ。
ここは深刻な事故を起こしたわけでなく、普通に運転していた原発だ。
なおかつ23.5万キロワットという小さな原発でもある。
それでもこれだけの時間がかかる。
問題はそれだけではない。大きくふくらむ「廃炉費用」。
トロースフィニッド原発の廃炉にかかる総費用は6億ポンド(約900億円)。
しかしこれは現段階における試算。
あと70年後、それがどうなるかは誰にも見当がつかない。
事故を起こした福島第一原発を除き、国内で廃炉作業が
実施されているのは、日本原子力発電東海原発(16.6万キロワット)と、
中部電力浜岡原発1号機(54万キロワット)
同原発2号機(84万キロワット)の計3基。
日本原電は東海の廃炉費用を850億円と見込んでいる。
2020年までに終了させる予定でいる。
中部電は浜岡1、2号機の2基で、841億円かかると想定している。
こちらは2036年までに終える計画。
いっぽう福島1~4号機。
こちらの廃炉費用は「青天井」になっている。
東電はこれまで9579億円を投じてきた。
しかし。増え続ける放射性汚染水問題は、いまだ収束のめどがたっていない。
溶けた燃料の回収・保管は、新たな研究開発費用が必要になるという。
「あれれ・・・だいぶはなしが脱線しちまったな。
呑みすぎたかな?」
「とりあえずもう一杯、呑んでから、話をもとへ戻しましょう。
はい。ぐいっといきましょう」
(37)へつづく
作品名:北へふたり旅 36話~40話 作家名:落合順平