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一介の小説家として、そのことをとりあえず綴り始めた。かつてはなんでもネタにしてやろうとなんにでも飛び込んでいたが、それは安全な場所から指令する過去の自分によるものである。
「前向き。経験値を稼げ。すべてはネタになる」そんな指令を受けていた。しかし現在と数秒先の未来の自分は命令違反を起こし、決して任務を達成したことはない。そもそもメンタルはそこまで強くないのに最初にガテン系物の小説を書こうとした日からうまくいくはずがなかったのだ。
しかし書いている最中に思うのはいつも前向きなことばかりだ。
もしかしたら売れてるのかもしれない、そして天才呼ばわりされるのかもしれない。しかし、そう天才にこだわり、何某賞にこだわり、そんなものは天才ではない。でも売れたら…。その永劫回帰だ。厚かましいことに「売れない」という選択肢は頭の中に入っていない。
かき集めた情報の中の一つに、「負けると思って挑む馬鹿はいない」という言葉を脳内から引っ張り出した。数ある名言から都合の良いやつをいくつかピックアップし、それは私の向き合うべき現実からの脱却を助長した。カーネルサンダースのようにいつかきっと理解される、ゴッホやニーチェのように真の天才とは死んでから評価される、そんなことばかり考えている。
実際それはそれで楽しい。しかしいざ現実に向き合うと決して裕福な家庭に生まれず、父親と母親は離婚し、祖母の家に居候するニートだ。それに幼少の時はたまに会う父からは「お前は母親に洗脳されている」と言われ、父親の所から帰ってきた時には母親から「洗脳されなかった?」と言われ、幼いながらに傷ついていた。そしてその心の傷からか、両親ともに信用しなくなり、代わりに祖母に依存するようになった。だが、祖母も祖母で幼い日に父―私の曽祖父にあたる―を亡くし、父親からの愛が欠如している人間だ。なにより尽くしたがりで、私がやらなくても良いと言ったことまで執拗に世話を焼いてくる。それに知能が低い。しかしそれは戦後中学校に通えない家庭もそこまで珍しくはなく上に、当時不治の病である日本脳炎にかかったからである。祖母の病は奇跡的に治ったがその後遺症により、―娘である私の母親曰く―大人であっても子供のような振る舞いをすることがあったそうだ。そのせいか知的好奇心はそれなりにあると思う私と比べて、知識に差がある。そんな生活にうんざりするも、一人で暮らすには私はあまりに弱く、かといって一緒に住む友達もいない。結局私は何かと理由をつけて寄生し、それでいて自分を正当化することにしか才能がない社会的弱者なのだ。
作品名: 作家名:茂野柿