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いくら祖母の家に住んでいるとはいえ仕事しなくてはならないと、相棒が仕事を紹介してくれた。町はずれにある工場で、そこの工場長はいい人だからお前でも大丈夫だと背中を叩かれた。呑みの席であったため私もつい余裕とばかり思っていたが、いざ電話がかかってきた時は謎の緊迫感により心臓から耳の毛細血管まで血が通ってることを再確認した。その瞬間脈拍が戦闘態勢だとばかりに己を鼓舞し始めたが、視覚は敵を捕らえられず脳が混乱し、それにより数兆あるといわれる細胞の中のミトコンドリアまでが我々の敵はいったいどこにいるのかと混乱し戦慄し、震えあがっているのがよく分かった。
私は本能的に仕事が嫌いなのだと、いや人間が嫌いなのだと、何兆とある細胞の1つ1つが私に呼びかけ、それに呼応するように震えた。大腸から小腸、胃に食道はそれまで甘受していたのを拒絶し始める。私が関わったことのない人間は、動物が本来持ち合わせていた闘争本能と敵に対する拒絶反応が、雌親の排卵期のように、凶暴で最凶で最悪な結果をもたらしてしまう。しかし私たち人間は理性と本能の生き物であり、それをしようにもそうさせない理性を持ち合わせていたことから、私はその敵を殺すこともできず、かといって逃げる場所もなく、ただただ迫りくる死を受け入れるしかなかった。
電話が鳴り終わる。結局電話に出ることができなかった。一仕事終えたかのような汗の量。私は少しばかりの安堵の後、私に落胆した。なにより私が私に落胆したという事実に落胆した。
常日頃から、いや、昔から自分に他人に期待しない生き方をしてきたつもりだったがいい年にもなって無職な私に何を自分に期待したのかと。むしろ絶望が平常だった私が、ほんの少しでも人生に希望を抱いてしまったことに焦燥感がふつふつと沸いてきたが、今さら人生なんてと煙草に火をつけた。
作品名: 作家名:茂野柿