小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

INDEX|2ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

揺れる電車の中から見える景色は、上京する時、ここに帰ってくれるときは雪景色ではなく、満開の桜がきっと祝福してくれるものだと思っていた。だが、今では右往左往する自分の心を紛らすために電車の窓から見える桜を見るほかなかった。これからいいことあるって、と全く煩わしいことを今にも言われそうなくらい、満開だ。今日の電車はよく揺れる。
無駄に過ごした十年は何にもならず、先生と呼べる存在でもない私は、両側から現実というの名の壁に押しつぶされそうになった。昭和の小説家にあこがれ着物で日常生活を過ごしていたせいかもしくはTPOにあう格好をしていないからか、ほかに乗車している人からの視線が痛い。特効薬であったはずの桜ももう見えず、洞窟の中を走る電車はこれから地獄へ向かう火車にも思えたが、あながち間違いではなかった。
電車から降りるや否や、目に余る桜と安堵感を与えてくれる心地の良い風に包まれたかつての故郷に私は、砂糖を入れすぎた珈琲かのような不快感に溺れた。息が詰まる、本当に水の中に溺れたみたいだ。水中に溺れたときはまずは冷静にならないといけないのだが、私は至極冷静であり、私は冷静に考えてもここではうまく呼吸ができないという結論に至った。小説家たるものいくら現代社会からの地位、名誉、その他社会で生きる上で不必要かつ実力を象徴として見せびらかすもの等剥奪上等精神であろうとも、奇人扱いされるのは私も中途半端に人であるゆえに、羞恥心が巡り回り理性で蓋を落としている。いっそのこと全部吹っ切れて暴れて叫ぼうとも思ったが、人間を失格になれず、かといって社会人には適応できず、両者一択であるなら、ベクトルから落とされた不良品である私はその欲望を宥めるほかなかった。
作品名: 作家名:茂野柿