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死にたくはない。が、生きたくはない。
太宰治のように絶望している訳でもない、ただ、このまま生きていても何も無いように思えてしまうのだ。いやむしろ、上司から叱責され、同僚から異端の目で見られ、憩いの場であるはずの家では社会的ステータスと常識の被害者となった祖母から、それを盾に私に愛と偽った口撃をしてくるのだ。しかし、そんな事があろうと過去の記憶からか楽しい思い出が共存している。それによりありもしない未来に希望を抱いてしまう。いつか、きっと。人間が神を造り上げた時のように、私も輝かしい未来を妄想し、創り上げる。

…いつ私はこの悪夢から目を覚ますのだろうか。自暴自棄するには微妙に強く、社会で生きるにはあまりにも弱い。いつだってそうだ。人間は社会の中で生き、社会によって殺されるのだ。他動物を殺すのは少数の人間と大多数の他動物であるが、人間を殺すのは大多数の人間と少数の他動物。それが人の所業か、またはた悪魔の所業か。
嘘を嘘と見抜けない人は、本音と建前に翻弄され、建前を理解せず、それを本音と受け取ってしまう。よく言えば純粋なのが、いや、純粋なのが悪なのがいけないのか、もしくは俗に言う大人になりきれていないのか、私は本音と建前はよく分からず本音で話して損することが多かったがそれはともかく、建前だらけの世界となった日本では生きていくにはとても辛く、腹を割って話すのは親友同士の出来事でしかなく、各々がその蛇の卵のような柔い殻に篭もり、その薄皮1枚だけで人間を判断してしまうようになった。私の生き方はそれを断固として反対し、昔から蔑まれて生きてきたのと、幼い時母から相手の目を見て話すよう教えこまれたせいで、表情ひとつで相手の感情を大抵理解してしまう。それが真実か否かともかく、その薄皮1枚の確信までは届かなくともその裏にあるものが分かってしまう。それがわたしの思い込みであると信じたいのだが、気が利くねという相手から発せられた言葉を取るに、嫌でも私はこの社会の常識とは戯れられないようだ。
鈍感な人が羨ましい。何も察しずに馬鹿みたいに犬の如くしっぽを振り回しているのだろう。本人がほかの犬も可愛いとも言ってると知らずに。
犬はそれで幸せなのだ。犬になりたい。馬鹿なコーギーにでもなりたい。ただ無限の愛を感じ、悠久のときを過ごし、死んでも愛される犬になりたかった。忘れ去られるのではなく、その飼い主に強烈な、人生を変えかねないほどの悲哀を、浴びせたかった。
作品名: 作家名:茂野柿