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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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川の流れの果て(3)

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「おお!来た来た!あれだ!あそこに留五郎がいらぁ!」
八幡宮の少し手前に、弥一郎の店の者達は居た。
与助が神輿を担いでこちらへやってくる留五郎をちらりと見つけると、弥一郎も職人達も、おかみさんまでもが大喜びして、暑さに喘ぎながら神輿を担ぐ留五郎と、我が町内の者達へ、「それっ!」と水を掛ける。

「わっしょい!わっしょい!おお親方!みんな!見てておくんなぁ!」
留五郎はびしょびしょになって陽の光をきらきら浴びながら、にかっと笑って八幡宮へ進んで行った。


昼下がりになると留五郎も戻ってきて、店の者達は親方も残らず「よくやった!」「おめえはほんとの江戸っ子だよ!」と留五郎を労って酒を注ぎ、それを照れながらも飲んだ留五郎は、「腹が減ったから、俺ぁ飯食ってきやす」と言い、「じゃあ俺達も祭りの屋台でも回るか」と、弥一郎一団は散り散りになった。

「与助!三郎!まずは寿司だな!」
そう言って振り向いた留五郎に与助と三郎はついて行き、近くの屋台で良さそうな寿司を探した。

寿司をつまんでは酒を飲み、天ぷらを手に持って祭りを眺めては水菓子の屋台に飛びつき、最後に留五郎は好物の鰻の串を屋台の親父に頼んでいた。

「ほれ、与助、三郎」
留五郎は屋台から少し離れた二人の元へ戻ってくると、二人にそれぞれ鰻の串を渡した。
「なんでい」
「くれるのかい」
「おうよ!まあ食えや!」
「悪いな留五郎」
「じゃあいただくとするか」
三人はそれから八幡を離れて大川へと歩みを進めた。

近くを転げるように子供が走り去っていき、母親や父親がそれを窘めて追いかけていく。

祭りに沸き立つ若者も老いた者も一緒になって、お互いに酌をして笑い合っていた。

それから、朝から酔っぱらっていたような真っ赤な顔をしている爺さんが、飲み屋の店先に座り込んでいて、その飲み屋の親父は、気怠い呼び声を出しながら焼き網の上の魚を返している。

茶屋の娘は、明るい声で客に返事をして茶や酒や団子を運んで駆けずり回っていて、あっちこっちから酔っ払いの喧嘩の声が聴こえてきていた。


しばらくすると永代橋が見えてきて、土手を降りた三人は少しずつ夕焼けになっていく隅田の川辺で、葦の生えていない土の上を選んで腰を下ろした。
留五郎は座った時にようやく鰻を食べ終えて、一つ大きな伸びをしてから、ごろりと横になった。それを挟んで与助と三郎も寝転がる。
「ああ~、それにしても!くたびれたぜ~」
そう言って留五郎は晴れやかに笑った。
「そりゃあそうだ、神輿担ぎは伊達じゃねえ」
三郎は留五郎の顔を見て、そう言った。
「そうだ、神輿は大変な苦労だからな、食って飲んで寝ちまえよ」
与助は留五郎を励ましていた。すると急に留五郎は、がばと立ち上がって、夕焼けに向かって背を伸ばして両手を掲げた。
「俺ぁよ!江戸に生まれて幸せもんだぜ!なぁ!」
与助と三郎も起き上がってそれを見て、「ほんとにおめえはいい奴だぜ」、「ありがとよ、トメ」と言った。

祭囃子が染み渡る夕焼けの真っ赤な空に、三人は笑った。