小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

川の流れの果て(3)

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 
「火事と喧嘩は江戸の華」であるが、もう一つ忘れてはいけないのは、祭りである。祭りとなると目の色を変える江戸っ子達は、夏も終わりだがまだまだ残暑の厳しい中、夏祭りに血を躍らせて噂話をしていた。

「よおよお、そろそろ八幡様の祭りじゃねえか」
「ああ、そうだなぁ」
弥一郎の店では、職人連中が藍甕にまたがったり、漬け終わった布を干すために運んだりしている。留五郎は祭りに思い巡らせて目を輝かせ、反対に三郎は、今やっと思い出したかのように、ぼんやり頷いた。
「けっ、なんだいおめえはよ。いつも本ばっかり読んでるからそうだってんだ。いいか、祭りの日にもそんな風にぼさっとしてやがったら、踏み殺されちまうぞ!」
留五郎がそう言っている間も三郎は仕事の手を止めず「分かってるさ、みんな気が荒くなるからな」と、他人事のように甕に向かってつぶやいた。
「どうもおめえは頼りにならなくて困るぜ」
留五郎もそうぶつくさと独り言を言いながら、いい色に染まった布を甕からじゃぶじゃぶ掬い上げて、それを干そうとその場を離れて行った。

富岡八幡宮の祭りの前の晩、弥一郎の店の職人達は、垢を落として祭りに臨もうと念入りに湯屋のぬか袋で全身を磨き上げて、前夜祭だとわっと騒いで酒を飲んだ。

朝起きて飯を食うと、褌を締め直して紺の法被に全員身を包み、それを手拭で身へ括りつけて鉢巻を締めると、意気揚々と外へ出たのだった。


富岡八幡宮の本祭は、江戸の各町内から一つずつ神輿が出る。町内の神輿を担ぐのに、弥一郎の店からは一番血気盛んな留五郎が出たが、それ以外の者も晴れの日に憂さを晴らすため、神輿の通り道で大声で叫び、担ぎ手に水をぶっつけ、江戸の者全員が酒を酌み交わし合えるこの日を喜んだ。


富岡八幡宮の近くは、まるで日本中から人を集めたような賑わいだった。
道の両端には祭り客目当ての屋台がずらりと並び、やっと神輿が通れる幅を残して人が詰めかけていた。

ただでさえ暑いところへ人が多いとなれば、まるで鍋から立ち上がる湯気のような湿気でそこらじゅうが煮えたぎるような暑さになり、ピッピキピッピキと高く鳴るお囃子が、人々の心を急かした。

まずは、八幡宮の神職についた者が煌びやかな神輿の上で恭しく大幣を振り、神社の者が厳かに太鼓を叩く。

そして舞姫が、人々に良く見えるようにこれもまた神輿の上に乗って慎ましく舞い踊り、それが終わるとおひねりが神輿へ投げ込まれた。
祭りに合わせて着飾った江戸の娘は舞姫の美しさに感嘆し、皆憧れの目で見つめていたし、男達も舞姫のことばかりはまるで人間でない者であるかのように有難そうに見ているのであった。

それから各町内から神輿が一つずつ出る番になる。いくつもいくつも数えきれない神輿が通り、それぞれの町から選り抜きの男達が「わっしょい!わっしょい!」と道中通して叫び続けて神輿を担ぎ、八幡に近づく頃になって声が枯れてしまおうとも休むことなく叫び続け、滝のように汗を流していた。
道の両側に居る男達は「しっかり担げー!もう少しだぞー!」と励ました。誰も彼もが、暑い中で神輿を担ぐ者に向かって水を掛けて励ますので、この祭りは「水掛け祭り」とも呼ばれる。