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遠藤誠の言うことなんか全部が全部嘘だと知れ!


 
皆様ぁーっ! ズドラーストビチェ! 今回も始まりました『帝銀事件はヤバかろう』。パーソナリティーはワタクシ、上坂すみれです。違います。おれです。
 
前回は「裏を取らずに信じるな」という話をしましたが、かく言いますワタクシが遠藤誠の書いた本を読んでおりません。だから前の話はもちろん、これからここに書くことも決して信じないでください。
 
で、またこの
 
アフェリエイト:のほほん人間革命
 
なんですが、前回ちょっと書きましたね。警察内部に居木井をうんぬんというやつを。先に引用しちゃいましょう。
 
   *
 
遠藤「(略)警視庁は、真犯人まで突き止めておった」
大槻「えーと、細菌兵器の生体実験を第二次世界大戦の時に行なったといわれる七三一石井部隊の……」
遠藤「諏訪中佐です」
大槻「ボクそこまで読んだ時ね、これは全部遠藤さんの創作なんじゃないかなとさえ思いましたよ」
遠藤「そう。しかし、GHQアメリカ軍総司令部は警視庁に対して、七三一に対する捜査中止命令を出した」
大槻「それは、アメリカも七三一部隊のつくっていた違法な毒薬兵器をいずれは戦争に使いたいからと。だから、それで七三一部隊が捕まっちゃったりなんかすると……」
遠藤「そう、そう。全部それが発覚するわけ。マッカーサーも首とびますよ。だから隠したんです」
大槻「マッカーサーが囲い込みたかったわけですね」
遠藤「そう、囲い込み。だってパクられたらGHQの国際的犯罪行為が全部明るみに出ますよ」
大槻「ほぉー。確か、諏訪中佐はちょっと頭がおかしかったんだそうですね、何とか中毒の……」
遠藤「ええ、パビナール中毒といって多少頭はおかしかったみたいですね。僕会ってないからわからないんですが、当時の捜査主任の成智英雄という警部が書き残した手記によると、帝銀事件の生き残り証人の言う犯人の人相、風体、骨格にピタリ一致した男だそうです」
大槻「ただ、平沢さんも似てますよね」
遠藤「この世の中には顔つきの似てる人ってのは結構いるんですよ。あの帝銀事件では犯人のモンタージュ写真がつくられたんですが、それに似てるということで、取り調べを受けた容疑者は全部で約一万人いるそうです」
大槻「アラ、まぁ」
 (略)
大槻「あの〜、諏訪中佐は、帝銀事件の一年後に死んでるんですよね」
遠藤「そっ、原因不明で」
大槻「それ、もう、ずばりどう思われますか? GHQが殺したんでしょうかね?」
遠藤「GHQの秘密警察の部分だと思いますね。口封じ」
大槻「やぁー、びっくりしちゃった。(略)」
 
   *
 
とあって、これにまた遠藤みずからのことこまかな解説として、
 
   *
 
【パビナール】麻薬の一種
 
【成智英雄】帝銀事件当時の警視庁捜査第二課の警視。この事件の捜査主任でありながら、「犯人は平沢ではなくて七三一隊員の諏訪中佐である」と主張、退職後の一九七二年頃までその主張を一般の雑誌等に書きつづけたが、その数年後に死亡した。
 
   *
 
というのがついている。
 
捜査一課の居木井と別に、捜査二課で〈七三一〉の線を追ってた主任。この事件では二課の捜査の方が主流で、居木井・平塚は傍流だった。『踊る大捜査線』で脇道捜査をさせられる和久・青島のふたりのように。諏訪ってのが死んだのは「事件の翌年」と別の注釈に書いてあるから、平沢が捕まってから少なくとも四ヶ月以上先ということになる。
 
「警視庁は、真犯人まで突き止めておった」という遠藤の言葉はだから、この時点でもう疑わしいことになる。「原因不明」なんて言うけどそのパビナール中毒とやらでたまたま死んだ一万分の一のそいつを犯人だと、成智ってのが後から言い出しただけなんじゃねえのか。そんな感じがむしろこれを読む限りではする。
 
オーケンも「アラ、まぁ」じゃねえだろう。犯人のモンタージュ写真(というのは正確には間違いで、正しくはドライブラシで描かれた絵だが)と平沢が似てるのは自分で見て知ってるが、「人相、風体、骨格にピタリ一致」と遠藤が言うのは遠藤が、
 
《僕会ってないからわからないんですが、当時の捜査主任の成智英雄という警部が書き残した手記によると〜だそうです》
 
なんて断ったうえで言ってることじゃねえか。つまり、ほんとはまるっきり似ていなくてもそう言えちゃうんだよ。こんなことをわざわざ言うのは遠藤の野郎、その諏訪というやつの写真を持っててそれがオーケンには到底見せられないものだったりするんじゃねえのか?
 
と、このようにとにかくすべてが疑わしい。さてここで『刑事一代』に載っていた図をお見せするが、文庫本をスキャンしたものですみませんね。前に書いたように私はこの事件についてインターネットは一切参照することなしに語っていくつもりですので、はっきりしたのをもっとよく見たい方は他をお探しになってください。
 
画像:犯人のモンタージュと平沢の写真
 
と、しかし、こんな画よりも、遠藤のやつはここでひとつ大きなミスをしているね。「疑わしい」どころじゃなくて突っ込まれたら言い逃れできないはっきりとした嘘をついてる。
 
「消防署の方から来た」と言っても嘘にならないが、「消防署から来た」と言ってはいけない。けれどここで遠藤は言ってしまっているんです。
 
 
 
《GHQアメリカ軍総司令部は警視庁に対して、七三一に対する捜査中止命令を出した》、と。
 
 
 
嘘です。これは事実ではない。GHQはそんなもの出していないし出すはずがない。
 
当然でしょう。GHQと言えどもそれは、越権行為となるはずです。さらに言えば〈命令〉とは、命令書をGHQの便箋に書きマッカーサーのサイン入りで出すべき相手に渡すことを言います。従わなければこれこれといった警告つきで。
 
おっかしいですよねえ。なんでそんなことをするねん。言ってることがまるっきり矛盾してはいませんか。
 
ということでおわかりでしょう。ここで遠藤が言ってることは、全部が全部嘘なわけです。GHQは警視庁に命令など出していないし出せません。〈国際的犯罪行為〉なんていうことをもし本当にやっているならなおのこと。
 
ただ、圧力をかけることはできます。アンダースンを思い出しましょう。こないだここに書きましたセーチョーの『小説帝銀事件』の最初の最初にだけ出る人物です。それも出るのは名前だけで、主人公仁科の前には最後まで姿を現さないのですが。
 
こないだここにあれへのリンクを貼ったとき、電子書籍にしたのはそれならアンダースンが出てくるところが誰でも無料で読めるだろうと思ったからなんですが、後で確かめるとあの本は試し読みナシだったんだね。オーケンの『のほほん人間革命』も。なんで? まあ『のほほん』は、遠藤との対談は本のいちばん最後だけど。
 
それでもこのブログでは、参考文献へのリンクを貼るとき電子書籍があればそれにすることにします。セーチョーの本はこないだ引いた部分をここに、もう少し長く引用しましょう。
 
   *
 
作品名:端数報告 作家名:島田信之