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なんてことを言ってそれが雑誌に書かれ、それがフカシだったとしても、読む者はそれを事実と受け取るだろう。GHQの人体実験だということにしたい者には、それが事実になっちゃうだろう。遠藤はそれを本当のこととして2800円の本に書いて大槻に話せるようになっちゃうじゃないか。
 
それが嘘だと知っていてもだ。どうやらほんとにそんなことがあったと思えるようなことも、この対談には別に読み取れる部分もあるのだが、それについてはあらためて別の稿を起こして書きたいと思います。よければ今後もお付き合いください。
 
とにかく、この占いの話を簡単に信じるべきでないと思った。法廷映画でよくあるだろう。弁護士が自分に不利な証人の信用を落とすため、陪審員に歪めた証拠を見せるシーンが。こんな話はまずそれを疑ってみるべきではないのか?
 
そう思った。とにかくこの遠藤という男がおれには信用できないのだからこの話も信用できない。ここで遠藤が語る言葉は、居木井なる人物が本当にそうだったのを意味していない。ここに書かれていることは、遠藤がオーケン及び本の読者に居木井がオカルト捜査をする人間なのだと思わせようとしているということなのであり、こんな話に都合のいい注釈をつけて読む者に事実と錯覚させようとする遠藤という男こそ信用できないと考えるべきだ。
 
そうではないだろうか。と、そう思ったそのときに、それまで「なるほど犯人は〈七三一〉の元隊員なんだろう」とつい思っていたことへの疑念が生まれたのである。広く信じられている話と違って平沢が犯人なのではないか?
 
で、その後に『日本の黒い霧』を読み、さらに『刑事一代』を読んでそう確信するわけだが、今回はこの『のほほん人間革命』の占いの話だけにしておきましょう。セーチョーの『小説帝銀事件』にはこの話の裏が詳しく書かれており、そこにごまかしはなさそうなので、おれは意外な事実を知ることができたのだった。
 
いや、占い師うんぬんは、セーチョーの本に出てこない。だから真相が完全にわかったわけではないのだが、とにかくその『小説』には、居木井が平沢貞通のもとにたどり着く経緯が記されていた。一部引用しよう。
 
   *
 
十七枚の事故名刺のうち、特に疑う余地のない数名の人を除いた残りの十名余りを、もう一度調べ直す目的で、いわば名刺捜査の最後の仕上げに、東北、北海道へ三班に分れて地味に流れていた。六名の名刺捜査班のうち、古志田警部補と、福留刑事は小樽に向かっていた。
 
アフェリエイト:小説帝銀事件
 
と。ここで名前を変えられているのが居木井警部補と平塚八兵衛だ。整理すると、
 
〈六名の名刺捜査班〉が〈十名余り〉の人物を〈調べ直す目的で〉〈東北、北海道へ三班に分れて〉〈流れ(動い)ていた。〉そのうち〈古志田(居木井)警部補と、福留(平塚)刑事〉の班〈は小樽に向かっていた。〉
 
と。セーチョーって悪文だな。そして平沢はこのふたりが行く小樽にいる。
 
つまり、会って話を聞かねばならぬ人間が十人余り。それが東北と北海道の間に広く散らばってるのを、六人がふたりずつ三つに分かれてシラミ潰しにあたろうということである。ただそれだけの単純な話だが、しかしやらなきゃいけない人間にとってはこれは大変な仕事だ。
 
おわかりだろう。この時代に移動と言えばSLだから、居木井警部補と鬼の八兵衛は星野鉄郎とメーテルのごとく、シラミAからシラミB、シラミCへと北国を旅してまわることになるのだ。無論、数日がかりだし、訪ねていって会えればいいが留守だとそこで待ちぼうけ。
 
そういう話なんだったら、イザ行く前に占い師に見てもらいたくもなるんじゃないか? でもって、
 
「易者先生がこいつだって言ったからオレと平塚で北海道まわるよ。君らで宮城と岩手をやって。で君達で青森・秋田」
 
なんてことをやりたくもなってくるってもんじゃねえか? いやもちろん知らないけどさ。あくまでセーチョーの『小説』を読んで、占いの話が本当ならば事実はこうだったんじゃないかとおれが想像しただけの話だけどさ。
 
でも、オーケンに聞いてみたい。もし事実がこうだとしたら、それってそんなにあっていいのかと憤らなきゃならないことか。後で礼状を出したという話が事実だとしても、それはそれほど問題視しなきゃならないことなのか。
 
おれにはそれほどのことだとは思えないような気がしますけど。とにかく関係者の言うことは、なんであれ裏を取らずに信じちゃいけないということです。そんな話は次に置きます私の作にも書いてますので、よろしければ見てやってください。では、ダスビダーニャ!
 
あした天気にしておくれ [電子書籍版]
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作品名:端数報告 作家名:島田信之