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またもうひとつの小説帝銀事件


 
これは読書ブログだが、おれはあんまり直木賞受賞とか、〈このミス〉1位とか2位とかいうのに興味がない人間である。あんまり興味ないけれど、少しは興味あるもんだから、図書館に行ったついでに、
 
画像:カササギ殺人事件
 
こんな本も借りてみた。借りてみたけど、てんでおもしろくないもんだからすぐ投げ出した。何年か前のこのミス1位というもんだけど、読んで「いい」と言ったやつは一体何がよかったんだ?
 
それはさておき、おれはあんまり直木賞受賞とか、〈このミス〉1位とか2位とかいうのに興味がない人間である。あんまり興味ないけれど、少しは興味あるもんだから、
 
アフェリエイト:占領都市
 
あらら。表紙が出せなかったか。まあいい。とにかくこんな本がまた十年くらい前の〈このミス〉で2位になったのも知っていた。知っていたけど、少しも興味ないもんだから、図書館の書架を歩きながらずっと横目に通り過ぎてた。
 
のだけれども、借りてみました。〈楽天ブックス〉で情報を見ると、
 
   *
 
【内容情報】(「BOOK」データベースより)
1948年1月26日。雪の残る寒い午後。帝国銀行椎名町支店に白衣の男が現われた。男が言葉巧みに行員たちに飲ませたのは猛毒の青酸化合物。12人が死亡、四人が生き残り、銀行からは小切手と現金が消えた。悪名高い“帝銀事件”である。苦悶する犠牲者たちのうめき、犯人の残した唯一の物証を追う刑事のあえぎ、生き残った若い娘の苦悩、毒殺犯と旧陸軍のつながりを知った刑事の絶望、禁じられた研究を行なっていた陸軍七三一部隊の深層を暴こうとするアメリカとソヴィエトそれぞれの調査官を見舞う恐怖、大陸で培養した忌まわしい記憶と狂気を抱えた殺人者。史上最悪の大量殺人事件をめぐる12の語りと12の物語ー暗黒小説の鬼才が芥川龍之介の「薮の中」にオマージュを捧げ、己の文学的記憶を総動員して紡ぎ出す、毒と陰謀の黒いタペストリー。
 
【著者情報】(「BOOK」データベースより)
ピース,デイヴィッド(Peace,David)
1967年、ヨークシャー生まれ。1999年、『1974ジョーカー』で作家デビューを果たす。2003年、イギリスの文芸誌「Granta」の選出する若手イギリス作家ベスト20の一人に選出される。2004年、『GB84』でジェイムズ・テイト・ブラック記念賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
 
   *
 
こう書いてある。イギリスの作家が事件を小説化した、それも割と最近の海外版《小説帝銀事件》なのである。
 
……が、なんなんだ、これは? 『カササギなんとか』も10ページも読んだところで到底読めたもんじゃねえと思ったが、これはそれ以前に、読めない。『アルジャーノンに花束を』の最初と最後みたいな文がずっと全体を埋め尽くしている。
 
アフェリエイト:アルジャーノンに花束を
 
それでも本をめくっていくと『刑事Hのノート』という章があり、スキャンして見せると、
 
画像:占領都市61-62ページ
 
こうだ。〈刑事H〉とは平塚八兵衛に違いないが、いちばん肝心の1948年7月の捜査、《アッ、スラれた》を含む平沢が帝銀事件の前にいかにカネに困っていたかを調べるあたりがこの通り、
 
 
【かなりのページが破損、汚損。事情は不明だが失われたページもある】
 
 
という一行で読むことができないものとなっている。これが28ページの間に17もあるのだが、つまり読者に読まれると平沢が犯人だとわかってしまう情報が17個もあるわけだ。
 
代わりにあるのはなんだか頭のおかしな刑事が、なんでかわけのわからん理由で平沢を〈クロ〉と決めつけ思い込んでいく記録だ。これを〈このミス〉で推した人は、ほんとにこのデイヴィッド・ピースという異人さんが八兵衛のノートを手に入れ読んで丸写ししたもんだと思ってんだろうか。
 
だろうな。本をめくっていくと、『あるジャーナリストの物語』という章になり、次の画像の赤で囲った部分に注意してほしいが、
 
画像:占領都市184-185ページ
 
こんなことが書いてある。なんやねんこれ。ケータイ小説か?
 
繰り返すが、これがこの本が訳された年の〈このミス〉2位なんである。オーケンならば、これをおもしろく読めるのかなあ。江戸川乱歩の『孤島の鬼』とか『パノラマ島奇譚』みたいなもんが好きな人なら、《サスペンス小説を読むよう》に、いやサスペンス小説なのかもしれないけれども、明智小五郎の冒険を読むようにして読めるんだろうか。
 
おれには理解できん。が、ともかく、
 
 
「ぼくは新聞記者だ」わたしは言う。「讀賣の」
 
 
とあるのでわかるようにこの〈わたし〉は遠藤美佐雄だ。ただし、〈竹内〉と名を変えてある。竹内は邪宗を奉ずる探偵・清水小五郎から七三一部隊の情報を買って記事を書く。デスクに見せるが、
 
画像:占領都市192-193ページ
画像:占領都市194-195ページ
画像:占領都市196-197ページ
 
この通り、読んで一度は「気に入った」と言った小野(大野木)に握り潰されてしまうのだった。刑事部長の藤田とは見ず知らずの関係となり、だから電話を掛けてこられることもなく、邪宗を奉ずる探偵・清水小五郎からまた情報を買って初めて事の次第を知ることになってる。「色々なことに説明がつくというものだろう?」と言うが、
 
 
「うん。色々なことに説明がつくというものでしょう」
 
 
と言わせてもらいましょうか。前回の金井喜一と言いこいつと言い……遠藤誠はオーケンに、
 
   *
 
そう。しかし、GHQアメリカ軍総司令部は警視庁に対して、七三一に対する捜査中止命令を出した。
 
アフェリエイト:のほほん人間革命
 
と言ったが、その証拠と称するものは読売新聞の遠藤美佐雄が藤田刑事部長から、
 
「権威筋の命令でね。この埋め合わせは他でするよ」
 
と電話で言われたという、ただこのひとつ以外にない。だがこんなもん、どこが証拠だ。
 
とマトモな人間なら言うとわかっているものだから、どいつもこいつも話を作り変えるわけだ。遠藤誠は、
 
画像:帝銀事件と平沢貞通氏54-55ページ
画像:帝銀事件と平沢貞通氏表紙
 
この通り、オーケンに言ったと同様、
《これが明るみに出れば、マッカーサーの首が飛んだことは、まず間違いない。》
だとか、
《当時、GHQの命令に逆らうことは、MPに逮捕されてアメリカ軍の軍事裁判に付され、長期の重労働を科せられるか、あるいは秘密裡に殺されることを意味し、これに逆らうものはいなかったのである。》
なんていう言葉で挟んで補強する。デイヴィッド・ピースと金井喜一、映画『帝銀死刑囚』は話をまるまる変えてしまう。
 
遠藤美佐雄の手記以外に何もないからそうするしかない、というのがわかりますね。が、これについてのおれの考えは述べました。藤田はおそらく、〈七三一〉の下部組織とも言える津田沼研究所を内偵しようとしていた。彼はその中に犯人がいるのでないかと疑っていたが、
 
作品名:端数報告 作家名:島田信之