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まさかですよね。おわかりでしょう。金井喜一というこの作家先生は、金額だけにとらわれている。机にいくら、棚にいくらと書きながら、それがどれだけの量と重さがあるかに頭がまわっていないわけです。自分の頭で考えず、他人が書いた、
 
《客観的な状況を見れば、答えは明らかです。》
 
なんていうのを鵜呑みにして本を書いてる。
 
だけなんだとわかるでしょう。しかしおれの考えでは、もし事件がアンドーナツの実験ならばこないだ書いた通り4人か5人でやるわけだから、カネ目当てに見せかけるため紙幣は全部持ってくでしょう。裏口に見張りを置いているわけだからあわてることはまったくない。ひとりがその係になっていくつかの袋に詰めたのを、見張りを含めた全員がひとつずつ持って店を出る。外にはクルマを待たせているわけだから、20キロでもラクに持っていけるというわけ。
 
おれならそうしますけど、あなたならばどうですか。
 
ね。わかるでしょう。多額の現金が残っていたからGHQの実験というのは話が逆。「おかしいな。これは単なる強盗殺人事件じゃなさそうだぞ」なんていうのは話が逆。これはごく単純なカネ目当ての事件だが、犯人が素人だから18万しか持っていけなかったと見るのが妥当。
 
そして犯人が素人だから、殺す気ないのに12人が死んでしまったと見るのが妥当。というのがおれの考えで変わりませんが、あらためてどうでしょう皆さん。
 
   *
 
――と、そんなところですが、この《もうひとつの小説帝銀事件》。後は全部がこの調子でお決まりの話を並べてあるばかりでどうしようもない。それでも飛ばし読んでいくと、「お」と思うページがありました。スキャンして見せましょう。
 
画像:毒殺小説帝銀事件362-363ページ
 
こうだ。成岡という人物が東日タイムズという新聞の大淀健吾という記者に話を聞いているところだとわかりますか。もちろん、〈成岡〉とは我らが秘密捜査官・成智英雄で〈大淀〉は読売新聞の遠藤美佐雄の名を変えたものに他なりません。
 
これは〈小説〉なもんだから話を変えてあるわけですが、例の、
 
画像:帝銀事件と平沢貞通氏338ページ上段
 
これだ。遠藤誠がオーケンに、《GHQが警視庁に〈七三一〉への捜査中止命令を出した証拠》と言っているものがまるっきり話を作り変えられている。
 
って、もちろん〈小説〉だからどう変えようと自由だが、GHQの中佐が実際に出てきて身分を明かしながらに直接〈要請〉したことになり、それがすぐさま〈命令〉と言葉を置き換えられている。
 
のがわかりますね。ウルトラ警備隊の中でなら、フルハシ隊員が「それは命令ですか」と聞くのにキリヤマ隊長が「いや、そういうわけではないが」と応えながらに何かやらせたらなんらかの埋め合わせをしなきゃいけないことにもなろうが、この〈小説〉ではどういうわけか、大淀(遠藤美佐雄)とは見ず知らずの人間ということに変えられている藤村(藤田)刑事部長が本当においしいネタをくれたことになっている。
 
のがわかりますね。キリヤマ隊長がフルハシに後でビールでも奢るんじゃなく、あらかじめ交換条件が用意してある。〈小説〉でありフィクションだと謳っているが、これで初めて事件を知る人間はこれを事実と受け取るでしょう。『遠藤美佐雄の手記』とやらにも、
 
《映画“帝銀死刑囚”によると大野木デスクが米軍当局から直接『手を引いてくれ』と依頼されたようになっていますが、》 
 
うんぬんとありますが、その映画(1964年作)を見た人間はそれが事実と思うでしょう。映画やテレビドラマを作る人間の思考法だね。新聞記者が電話で「権威筋の命令でね」とか「この埋め合わせは他でするよ」と言われただけではなんだかまるで、
 
 
「これじゃあこの官僚さんが、自分の都合で適当なことを言ってるだけみてえじゃん」
 
 
と見る者に思われてしまう。普通の人にはそう見えてしまう。それじゃいかんから〈ガイジン〉を出せ。〈ケンタッキー・フライド・チキン〉のカーネル・サンダースみたいな中佐が軍服を着て胸に勲章を一杯つけて直接に、日本の官僚を金魚のフンについて来させながらに言ったこととするのだ。
 
と。それで映画を見る者には、《警視庁の刑事部長の同席の意味が漠然と理解でき》るだろう。〈筋肉少女帯〉の大槻ケンヂなら簡単に、
 
   *
 
マッカーサーが囲い込みたかったわけですね。
 
のほほん人間革命
 
と、わかったようなこと言うだろう。「客観的な状況を見れば、答えは明らかですもんね」とか言っちゃってさ。
 
そして朝鮮で実際に生物兵器が使われた話も鵜呑みにされるわけだ。セーチョーという〈I Love N.K.(ノースコリア)男〉がプロパガンダにひっかかっているだけとわかりそうな話なのに。
 
ねえ。こうした客観的な状況を見れば、答えは明らかじゃないですか――とまあ、こんなところで今日の話はおしまいです。それではまた。
 
小説アメリア・イヤハート事件 [電子書籍版]
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作品名:端数報告 作家名:島田信之