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が、変だろう。これはどうやらこの年の3月のことらしいのだが、GHQはこのとき各新聞社の事前検閲をしていた(7月に廃止、事後検閲となる)。マッカーサーは朝鮮戦争勃発翌日、〈アカハタ〉の発行停止を命じた。そういう権限があるのだから、別に藤田を通じなくてもアンドーナツは大野木デスクとやらに直接、「手を引かぬなら」と言いにいける。
 
はずだが、どうしてこうなるのか。皆さん、藤田の言うことは、言い訳がましいと思いませんか。おれは思います。藤田自身が石井部隊のネタをブン屋にスッパ抜かれたくないもんだから、〈権威筋〉という言葉で線を追わせまいとしている。
 
ようにおれには思えるけれどどうでしょう。そもそも前に書いた通り、GHQになんで藤田に命令なんかできると言うのか。
 
ウルトラ警備隊の中でなら、キリヤマ隊長が「これは命令だ」と言えばそれは命令だが、しかし相手がフルハシやアマギやソガやアンヌだからだ。アンドーナツはフジタに命令できないし、フジタはミサオに命令を出すことはできない。
 
所属する組織が違っているからだ。どうしても出したいのならGHQの便箋にアレコレ書いてマッカーサーのサインをもらい、従わぬならコレコレの法に問うゾと言いながら相手に渡さなければならない。
 
それが命令だ。けど、そんなことしなくても、圧力をかけることはできますね。圧力をかけることはできるけど、しかしそれには口実が要る。
 
だから「権威筋の命令」と言い、「いろいろの関係があって」と言うが言うだけの言葉であって、藤田自身が遠藤美佐雄に「君一流のスッパ抜きでやられては困る」と言ってる。「この埋め合わせは他でするよ」と、口だけの約束をしてる。『それでもボクは』の「それは友達にもらって」と同じ、存在しない武田真治の命令なのだ。
 
そう見るのが妥当だろう。何より、「警察も石井部隊の捜査をやめる」なんてひとことも言ってない。現に成智という〈警視庁捜査二課秘密捜査官〉を立てて五十数名を内偵または直接調べたりしてるんだろう。
 
成智が自分で手記にそう書いてるじゃないか。矛盾もはなはだしい。で、さらにこの〈資料編〉には、次のようなものまで載せられている。お役所文だが、真実にたどりつきたいのならば読み飛ばさないこと。意味を汲むのはそう難しくないはずだ。
 
画像:帝銀事件と平沢貞通氏359-363ページ
 
どうだろうか。まず〈2〉の(8)。
《藤田氏は新聞社が本件の捜査を妨害するので甚だ不都合を生じていると述べ、本件について当課の協力を要請した。彼は特に読売新聞について苦情を述べた。》
と書いてある。
 
それから〈3〉の『ジョンソン・マンロウの覚書(1)』はぜひじっくりと読んでほしい。おれにはこれはどう読んでも、GHQが藤田に命令してるのでなく、藤田の方からGHQにものを頼んでGHQがその通りにしてやろうとしてるようにしか思えないんだが、遠藤誠はそうは取らなかったのか? これを訳した小林敏久なる人物も、そうは思わず訳したのか?
 
としたら、わけがわからない。遠藤誠が《せっかく私が苦労して集めた証拠》は、まったく逆に、捜査中止命令などなかったことを証明している。GHQが早期解決だけを願って「〈七三一〉の隊員だろうとなんでもいいから捕まえろ」と言ってたことを証明している――としかおれには思えないのだ。〈彼ら〉にしてみりゃ、どうせ役など立つはずのない生物化学兵器より、日本を共産主義の防壁にすることの方が大事なはずなのだから。
 
成智は「内偵」という言葉を使った。おれが思うに、藤田はおそらく七三一部隊(よりも津田沼研究所)を内偵しようとしていたのではなかろうか。元隊員の何者かが毒をソ連か中国に売る考えでも持っていて、事件はその実験だった、なんて推理をしてたのかもしれない。そこに読売新聞が首を突っ込んできたものだから、追い払うため権威筋を口実にし、ジョンソン・マンロウに口裏を合わせてくれるよう頼んでマンロウが応じた。それが事件からひと月半後の3月11日のこと――これはそのように考えるのが自然で妥当とおれは思うがあなたはどう思いますか。
 
とにかく、事件の犯人が誰かなのは別として、遠藤誠が捜査中止命令の話を本気で信じていたのは確かなようだな。そういう意味ではこの点で嘘はついてないわけだ。『帝銀死刑囚』って映画も見ていたのかしらん。
 
――と、こんなところで今日はおしまい。この本の話はまだまだいくらでもあるのでお楽しみに。それではまた。
 
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作品名:端数報告 作家名:島田信之