端数報告
そこに気づけばこの話がまったくのガセとわかるでしょう。すべては甲斐文助という男の作り話なのが明らか。これを信じるようではあなたは振り込め詐欺師に騙される人を笑えません。
9.疑惑の鑑定
というのはさっき書いた通り。事件現場に鑑定に充分な量の毒は残っておらず、東大に持ち込んでもわずかなブツからわかったのは《ある種の青酸化合物》というだけであり、そこから「おそらく青酸カリか青酸ナトリウムだろう」と言われた。
というだけの話で特に疑惑と呼ぶほどのことは何もない。その後のクロマティ大学だか、大阪市立大学だかでの再鑑定で毒は〈青酸ナントヤラ〉だの〈青酸カントヤラ〉だのとはっきり特定された。これは戦時中に〈七三一〉が……などという話があるのはすべてガセだ。その古畑種基教授ってのがほんとは〈七三一〉の毒と知りつつ……なんて話もあったりするかもしれないが、それもまったくの与太と言うべき。
10.参照に値するのは
佐伯省の『疑惑α』。三十七年間にわたる執念の調査によって、この事件の核心に迫っている本? 毒薬について鋭い考察をおこなっているほか、平沢貞通が実は事件に深く関与していたことも明らかにしている? リアリティーと迫力に秀れた作品だから一読をおすすめしたいとこの本の著者が書いている?
それはどんなものなのか、とお思いの方はありますでしょうか。ではこのたびおれが手にした5冊の写真をもう一度見せますからご覧ください。
画像:5冊の本
右から二番目。わかりますね? なんとその『疑惑α』が、図書館にあったもんだから借りてきたのです! わかりますか。図書館てのは、こういうふうに利用するものなのです。新刊ベストセラーをネットで予約してそれだけ借りたらもう用無し、なんていうのじゃいけないとおれが言うのはこういうことです。
で、その『疑惑α』だが、イヤハヤ驚きのご本でしたよ。けれどもそれを語るのは、別の機会と致しましょう。そんなわけで今日はこれまで。図書館の賢い利用法について何かおもしろいものがないかとかとお思いの方は、おれが書いた次のものなどいかがでしょうか。それではまた。
図書館の本を濡らしたら
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