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と、おれが刑事ならそう考えてそう言います。痴漢は詐欺や放火と違う。何がなんでもムショ送りにしなきゃならない犯罪じゃない。法廷に立たせるのは一度捕まってもまたやって、二度捕まってもまたやって、と何度でも繰り返すやつだけでいい。
 
と、おれが刑事ならそう考えてそう言いますが、この方が自然であり妥当だとは思いませんか。あの映画では、刑事ははっきり「本当はアイツはやってないと思う」と言ったわけではないじゃないか。
 
そのようにも取れる言葉を言ったというだけじゃないか。大体、ちょっと考えてください。その刑事が本当に「この男は痴漢などやってない」と思いながらに無理に自白させたのならば、そんなこと、迂闊に人に漏らすでしょうか。その秘密は墓場まで持っていこうとするんじゃないかな。
 
そうでしょう。もし本当に《あれは無実》と思いながらにそう言ったなら、セーチョーの『小説』みたいに、言った途端、
 
   *
 
 流れるような話術が不意にそこで停った。走っているものが急に動かなくなった感じである。はっとして、思わず相手の顔を見たのは、聴いている仁科俊太郎の方であった。
 岡瀬隆吉は眼を遠くに遣って、しかも視線を動揺させている。唇を開けてはいるが声は出ていない。われわれが言ってはならぬことを、うっかりと言いかけて気づき、うろたえているときの表情と同じであった。
 (略)
 今までの元気な声が失われ、低い声で曖昧な言い方で結んだ。言葉だけでなく、唇まで閉じたのである。明らかに、彼は、自分の軽率に後悔し、その後悔を見破られないとして、ごまかしを思いつこうとしているようだった。(略)
 
アフェリエイト:小説帝銀事件
 
なんて具合になりそうなもんだが、この『それでもボクは』という映画はそういう描き方でもない。たんに「まさか起訴すると思わなかった」と言っただけの言葉を聞いた人間が、《この刑事は彼は無実だと思いながらに……》などと勝手に受け取っただけ。
 
と見るのが妥当じゃないすか。阿曾山大噴火先生が〈強制わいせつ〉と〈準強制わいせつ〉と〈公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例〉の区別が自然につくようになるほど痴漢の裁判を傍聴しながら、その中で、《被告人はまず間違いなく痴漢の前科がある》、つまり、
 
《一度目の逮捕・送検で起訴された被告人を滅多に見ない》
 
旨の文を書いているのは、一度目の逮捕・送検で起訴される被告人が滅多にいないからだろう。エヴァンゲリオン旧劇場版のシンジ君みたいなことをシコシコやって女の子にひっかけるような痴漢なら、いきなり最初の一発目で起訴したりもするんだろうけど(知らないけど、それをやったら強制わいせつ(7年以下の懲役)どころか傷害罪(10年以下の懲役)の適用となって告訴なしでも起訴できたりするかもしれない)、腕を掴んだ人間が「痴漢だ」と言ってるだけのやつの場合、検事は二度目か三度目を待つ。
 
それが普通で当然だと刑事も思ってるってことです。『それでもボクはやってない』の周防正行の嘘に惑わされてはいけない。
 
――と、しかしこれもまた、帝銀事件の話と同じ。思い出してみてください。『のほほん人間革命』の、
 
   *
 
遠藤「(略)警視庁は、真犯人まで突き止めておった」
 
アフェリエイト:のほほん人間革命
 
の話を。諏訪中佐だと突き止めながら、GHQに捜査中止命令を出されたから……だとかいう。バカらしいにもほどがある。
 
そしてまた、占いの話。溝呂木大祐というやつの『未解決事件の戦後史』(双葉新書 リンク貼れず)って本に、
 
   *
 
なお当時、居木井は宗教的な姓名判断に凝っていたといわれている。その占いで、「平沢貞通」という名前が怪しいという結果が出たことが、居木井の背中を押したという説がある(諸説あり)。
 
   *
 
などと書かれているやつ。
 
けれども、なんだ、《諸説あり》ってーのはよ。居木井警部が自分で「あの占い師は当たるんだ。おれは礼状を書いて出した」と言ってるんなら諸説あったりしねーだろ。居木井警部が黙ってるなら話は誰も知らんだろ。成智英雄だのなんだのかんだの、秘密を墓場まで持っていくどころか、誰彼かまわず言い散らかして雑誌に手記まで出すのがいる。その連中が言うことがひとりひとり違うから、諸説あることになるんじゃねーのか。と、前にそんなこと書きましたね。
 
この話はあれと同じです。こんな話はガセを疑うべきなのに、GHQ実験説を信じたいから疑わない。オーケンみたいに、
 
「こんなことがあっていいんですか?」
 
と、言うのが偉くてカッコいいつもりになるから簡単に信じる。ミスリードにうまく乗せられてしまうわけです。
 
しかしやっぱりこの《五聖閣の占い》の話は、普通に考えてガセでしょう。こんなガセくさい話はおれにはガセとしか思えないのでガセに違いないと、おれは思うがどうでしょう。「ガセくさい」と思いませんか、あなた、こんな話。そうは思わずオーケンみたいに「こんなことがあっていいんですか?」とか、「アラ、まぁ」とか「やぁー、びっくりしちゃった」とか言うのが頭のいい人間と思いますか。
 
ふうん、バッカじゃねえか。と――さてこのあからさまなガセ情報の出どころについて、成智よりもっと疑わしいやつの話が実はあるのですが、それについてはまたいずれ。今回はこれでお別れといたしましょう。
 
「よく見ろ。こんなの考えりゃすぐ嘘だとわかりそうなもんだ」というような小説で、何かおもしろいのがないかとお探しの方は、おれが書いた次のものなどいかがでしょうか。それではまた。
 
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作品名:端数報告 作家名:島田信之