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なんか聞くたび同じなのに違うような気がするのはなんだろう、とずっと思いはするのだけれど、別に深い関心もなく詳しく書かれた本を読もうという気もなかったもんだから、それで済ませてたんですよ。けれどもそれが、以前に書いた、『日本の黒い霧』なんですよ。定食屋の棚に置いてあったのを、なんの気なしに手に取った。そこに帝銀事件の章があるということも知らなかった。
 
で、そこで、みんながガセを信じてるだけと知ったわけです。「再鑑定で〈七三一〉が開発した毒とはっきり明らかになった」というのは嘘か。GHQの人体実験だということにしたい刑事が、GHQの人体実験だということにしたい学者に、「真実を明らかにしてくれ」と言って頼んだ再鑑定。思わしい結果なんか出なかったのに、学者の答は「その可能性は捨てきれない」。これを聞いたセーチョーが、「そうか、やっぱりそうだったのか。そうか、やっぱりそうだったのかあっ!」
 
「やっぱり、やっぱり、〈七三一〉の元隊員のしわざなのかあーっ!!!」
 
と。『黒い霧』に書いてあることは、おれにはそうとしか読めませんでした。そして話を聞くたびに、同じようで違う気がする理由もわかったわけなのです。学者の先生達が、
 
「ボクなら青酸****を使うね。だから青酸****の実験なのさ」
「いーやボクなら青酸@@@@。テーギン事件は青酸@@@@の人体実験だったことに疑いはない」
 
と言ってるだけなんだと。事件は現場で起きてるんじゃなく、大学の研究室で起きてしまっていたんだと。それをいちいち鵜呑みにするのが大勢いるだけなんだと。
 
《青酸カリは即効性で飲んだ途端にウッとなるため、この犯行に不適格。遅効性でなければならず、軍事用の毒を揃えられるのはGHQ以外にない。そして彼らの間にも実際に試した者はいないのだから、〈七三一〉の元隊員の手を借りなければ実験できない。だから》と、平沢の無実を信じる人々は言う。まあ、そこまでの理屈だけは、よく出来てると認めましょう。しかし、だからと言ってどうして、帝銀事件がその実験ということになるのか。
 
《七三一&GHQ》説を最初に知ったときからおれは、「飛躍してる」と感じてました。青酸パリだか青酸ラリだかの話を聞くたび、どうも変だと思ってました。犯人は毒に精通しているんだろ? 青酸パリダカラリーだかなら、うまくやれると知ってたんだろ? 適切な毒の分量もわかっていて、飲んで何分後に苦しみ出すかといった詳細なデータを既に持ってるんだろ?
 
だったらなんであらためて、試さなけりゃいけないんだ?
 
と、そこが、どうも変だと思っていた。GHQは〈七三一〉が実験した何百という毒の詳しいデータを得、「よし、試そう」と考えた。まあ、そこまではいいとして、試すのはうちひとつだけ。そんなの、意味があるのかしらん。
 
やって何がわかったと言えば、16人中12人が死んだという、それだけだ。そんなの、意味があるのかしらん。
 
カメラを仕掛けて人がもがき苦しむさまを映画にできたわけじゃない。検死に立ち合い、何から何まで切り刻むのを見れたというわけでもない。そんなの、意味があるのかしらん。
 
詳細なデータを既に持つ者が、ただ死ぬことがわかるだけの実験をどうしてする必要があるのか。それは実験と呼べるんだろうか。仮におれがアンダースンだとかいう男として、毒をぜひとも試したいと思ったら、別の方法を考えないかな。
 
たとえば、こんな手はどうだろう。女に夜道をひとり歩いている男を、「お兄さん、遊んでかない?」と誘わせ宿に入れる。「まず一杯」と言ってそのとき隣の部屋ではムービーカメラがすべてをおさめる準備をしており、それから遺体を解剖する医者。血液を採る者とかに、臓器をホルマリン漬けする係と、残った部分を袋に詰めてトラックに積む役が数名……。
 
おれがアンダースンならば、そういうやり方でいくんじゃないかと思うんですが、どうですか。なんか変なこと言ってますかね。帝銀事件みたいなやり方は絶対しないと思うんですが、どうですか。なんか変なこと言ってますかね。
 
《帝銀事件は軍の実験》なんて話はバカらしい。《素人のまぐれ当たり》とみるのが妥当でだから平沢が犯人だとおれは思うがどうでしょう。なんか変なこと言ってますかね。
 
「青酸カリではうまくいかない。ボクなら青酸パリダカラリー」と学者さんはみな言うようだけど、誰ひとり、試したわけじゃないですよね。青酸カリではダメだというのを、確かめた人はいないですよね。青酸カリではダメであってほしいから、青酸カリではダメだと言ってるだけなんじゃあないんですか。
 
そういうのが科学者のあるべき姿勢と言えますかねえ。てわけで、もしよかったら、次の〈毒〉をお試しください。冗談がかなりキツイかもしれませんけど。
 
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作品名:端数報告 作家名:島田信之