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使用上の注意をよく読んでください


 
また帝銀事件です。このブログが自作の宣伝目的にやってるものであることは、いちばん最初のログに書いた通りですから、そんなやつの言うことはあまり信じないように。《あの事件はGHQの実験だ》としている本を何冊も何冊も読んでる人に、このブログをどうぞ教えてあげてください。私の考えが間違いで、ほんとはどうかわかるように説明してくれるでしょう。
 
そういう人にとってセーチョーの『小説』は、どのくらいの評価を受けているんでしょうね。実は私、さして厚くもないこの本(文庫で300ページ足らず)だけを頼りにして、今この文も書いてます。書棚に帝銀事件の本は他に一冊もありませんし、『刑事一代』にしても帝銀事件の章は60ページくらいのもの。『警視庁重大事件100』はたったの4ページ。インターネットはまったく参照していません。
 
そんなんでこれ書いてんですよ。恐れ多い! なんて恐れ多いやつなんだおれは! ってことでおれの言うことなんか、信じちゃいけないんだからねーっというのが、わかっていただけたのではないかと思うところで、さてセーチョー。
 
『小説帝銀事件』は最初にアンダースンというGHQの秘密機関の人間が出てくるところを除いて事実関係に嘘はなさそうに思えます。主人公のR新聞論説委員・仁科俊太郎は事件から十数年後、当時に警察官僚だった人物と言葉を交わして帝銀事件の話になり、
 
   *
 
「アンダースンという奴は悪い奴でした。保安関係なら、どんなことにも顔を出して横車を押す。帝銀事件のときでも、警視庁にやって来て……」
 
アフェリエイト:小説帝銀事件
 
と、そこまで言ったところで口をつぐむ。ただそれだけを根拠にして、アンダースンの関与を疑う。アンダースンが裏ですべての手を引いていたのじゃないか?
 
と、『小説』と題していても、小説部分はそこまでで、後は仁科が事件の詳しい資料を読むだけ。事件は現場で起きるんじゃないのよ。新聞社の資料室の中で起きるの。勘違いしないで!
 
というわけで仁科はまず、犯行がそもそも平沢に可能だったのかを疑う。あの強奪が成功したのは〈素人のまぐれ当たり〉だとされる。だがそんなことあるだろうか。よほど毒物に詳しくて、扱いに慣れた者でなければ、成功しない計画じゃないのか。
 
ウン、説得力がある。もっともな疑問であるのは認めよう。けれどもしかし、この仁科は、そこでこんなこと考えるのだ。引用すると、
 
   *
 
(略)第一薬は無色で、下のほうが白濁していたというが、(略)
 次に、犯人が自分でもたしかに飲んだという点について、警視庁の最初の推定では、上に油を浮かして、自分は油だけを飲んだのだろう、ということになっていたが、青酸カリを飲んでも死なない方法は軍で成功していたのである。それは、写真用ハイポを飲んでおくことで、これは軍の糧秣庁で極秘に研究していた。ハイポを飲ました兎は、青酸カリをあとから飲ましても死ななかった、という実験がある。(略)
 だから、帝銀事件の手口は、素人のまぐれ当りと考えるよりは、実際に毒物の経験をつんだ、一部軍関係者と見るほうが、はるかに筋が通るのである。そして捜査本部も、極力、この筋を追ったのであった。
 
   *
 
って、おいおいおい。あのなあ。実は私、以前写真を趣味にしていて、白黒写真の現像・焼付までやってたことがあるんですよ。前回、「カバンに札束詰めて、後に湯呑みを入れたらもう」なんてなこと書いたのも、ショルダーバッグに一眼レフと交換レンズを数本入れて歩いていた経験からなんですが、その頃買った定着剤のハイポが今も手元にあって、こんなことが書いてあります。
 
画像:白黒写真現像定着剤の袋
 
ピンポン。よく映画でハイポ液に手を突っ込んで印画紙を取り出す場面があるけど、あれは映画の嘘で、ハイポ液は素手で触るとヒリヒリするシロモノですよ。あんなもんのより濃いやつを飲むなんて話はとんでもない。
 
兎は「死ななかった」んじゃなくて、「のたうってもがき苦しんだが死にはしなかった」んじゃないのかね。知らないけどさ。その実験をおれは見たわけじゃないから知らないけどさ。
 
しかし人から「百万やる」と言われても、ハイポなんか飲むのは絶対お断りだね。まして後から青酸を飲めなんて話は、一千万でもお断りだね。一億ならば? ハハハ、どうだろ。一億円ねえ。
 
いや、やっぱり一億だろうと、遠慮したいと思います。「死なない」と「まったくなんともない」とは違う。あなたならば、どうですか。「兎では死ななかった」からと言われて、ハイポを飲んでその後に青酸を飲めというのを引き受けますか。
 
ねえ。ちょっと考えたらわかりそうなもんでしょう。こんな話を「はるかに筋が通る」としている人の論を、ウンウン頷いて読んでどうする。
 
事件で毒を飲みながら命を取りとめた者達は、液は無色で下のほうが白濁していたと言っている。つまり、分離していたわけだ。水と油がそうなるように。
 
ならば警察の推定通り、自分は上の〈無色〉を飲んで、他には〈白濁〉を飲ませたと考えるのが自然じゃないか。素人に決してできないと言うほどに難しくはないんじゃないか。絵描きなんだから手は器用だろ? プロの絵描きがそれくらいできないようでどうするんだ?
 
という疑問さえ私は湧いてくる気がするが、しかし平沢貞通の無実を信じる人々は、「あれは〈素人のまぐれ当たり〉なんかじゃない。同じことを過去に何度も重ねた者でなければ絶対に成功しない。だから犯人は〈七三一〉の元隊員で、GHQの人体実験なのだ」と口を揃えて言う。これに続けて、
 
「毒は青酸カリじゃない。青酸カリでは飲んですぐウッとなってしまうため全員に飲ますことができずに必ず失敗に終わる。だから青酸カリでなく、青酸カリでないのだから平沢氏が犯人でない」
 
と見たようなことを言う。
 
口を揃えて。まるで兎の実験を、見たように言うセーチョーのように。それから、
 
「青酸××××だ。○○大学の△△先生が明らかにした」
 
と口を揃えて言う。口を揃えて言うのだが、私は前からちょっと疑問に思っていたことがありました。その話、聞くたび前に聞いた話と違ってないかな。
 
ねえ、皆さん。感じたことありませんか。よく聞くでしょう。「帝銀事件の毒は青酸カリじゃない。青酸◎◎◎◎だ。□□大学の☆☆先生が明らかにした」というやつを。ありませんか。「青酸$$$$だ。♪♪大学の※※先生が明らかにした」というやつ。おれもたびたび耳にしていて、そのたんびに「前に聞いたのと同じだな」と思いはするんですけれど、でも同時に、いつもいつも、「前に聞いた話とは違うような気もするな」と思ってたんです。だいたい、最初は、「再鑑定で〈七三一〉が開発した毒とはっきり明らかになった」と言っていなかったっけ?
 
作品名:端数報告 作家名:島田信之