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武田真治は痴漢の友


 
さてまたまた『それでもボクはやってない』という映画の話です。
 
アフェリエイト:それでもボクはやってない
 
これが2007年の作で、『デスノート』が藤原竜也主演で映画化されたのがその前年の2006年。けど、さらにさかのぼって、1994年の末だな。『NIGHT HEAD』って深夜ドラマの劇場版公開は。確かそのちょい後だと思うが、これに主演の武田真治があるテレビの番組に出て、スタジオでフィリップボードと言うんですか、なんか板にいろいろと書いたものを見せられまして、その中に、
 
《強制わいせつ》
 
とあるやつがあり、武田真治が喜んで、
 
「強制わいせつ! いいですね。わいせつなことを強制する。ぜひやってみたいっす」
 
とかなんとか言ったのを、おれは画面を眺めながら、
 
「ふうん、あっそう。武田さん。〈強制わいせつ〉って、痴漢だよ。あんた痴漢をやってみたいの」
 
と思った記憶がある。まあそれだけの話ですが。
 
アフェリエイト:NIGHT HEAD(中古レーザーディスク)
 
さてまたおれよりずっと詳しい阿曾山大噴火先生の教えをいただくことにしましょう。こないだここで紹介した『裁判狂時代』という本に痴漢という犯罪は、
 
   *
 
(略)裁判では「痴漢」という罪名じゃないんですね。痴漢行為の程度によって三つに分かれます。
「強制わいせつ」=女性の下着の中にまで手を入れて肌に触れた場合
「準強制わいせつ」=女性の衣服の中に手を入れて下着の上から触った場合
「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」(東京以外は違う名称かも)=衣服の上から触った場合
 実際には違うことで三つに分けてるのかもしれないんだけど、僕がいくつもの痴漢裁判を傍聴した経験上、この分類の仕方で間違いないんじゃないかな。
 
アフェリエイト:裁判狂時代
 
と書いてある。お友達にどうぞ教えてあげてください。
 
けれども、そうだ。真治と言えばもうひとり、なんかいたでしょぼくらのお友達の中に。シンジというのが主役のアニメの旧劇場版で出てきていきなり、
 
「何を見せるんじゃおんどれは」
 
と監督の周防じゃなくて庵野秀明という野郎の頭を蹴たぐりに行きたくなるのが。ひとくちに痴漢と言ってもいろいろあって、電車の中で、あのシンジ君みたいなことをシコシコやって出たものを女の子にひっかける。そういうやつもいたりするという話を聞くけど、その場合、なんという罪に問われるのでしょうか。お友達に知ってる人がいたらどうか教えてください。
 
おれは知らんが、そういうやつは、服についたその〈サンプル〉を調べさえすりゃ動かぬ証拠になるだろうから、冤罪はない。と思うけど、女の体にたださわる痴漢の場合は難しい。『それでもボクはやってない』の場合は被害者の女の子が、加瀬亮演じる〈ボク〉の腕を捕まえて「この人だと思います」と言う以外に証拠らしき証拠がない。
 
それで無理矢理自白させて凶状持ちてのはひどい話で、信じてもらえないかもしれないがおれもべつだん冤罪があっていいと考えているわけではないので、「おれが検事なら起訴しないな」と思っていると検事役が、
 
「お前は起訴するからな」
 
と言うのを見たときビックリした。で、それから「ああそういう映画だっけ」と思い直したがあんまり無茶な。この時点では例の最初の判事役が傍聴席の立ち見を許すとこまで話が進んでないから、この映画の裁判部分は全部が全部嘘で塗り固められているのをおれは知らない。
 
だから思った。この検事バカか? 痴漢なんかどうせまたすぐやって捕まるんだからそれを待って……。
 
などと考えているとやがて後半の展開で、法廷でこの検事が、
 
「これは家宅捜索により、あなたの部屋で見つかったものですが、なんですか」
 
とか言って、DVDのパッケージを出す。タイトルは『痴漢鉄道999』とかなんとかかんとか。
 
役所広司と瀬戸朝香が目をみはり、傍聴席がざわめいた。おお、なんとそのような隠し玉があったのか。検事はさらに、
 
「確かにあなたのものですよね」
 
「そ、それは友達にもらって……で、でもそんなの持ってるからって!」
 
と加瀬亮演じる〈ボク〉は叫ぶのだった。そういうシーンがあるんですよ。あの映画を見てない人に説明すると。
 
おれは「ほほう、なるほど」と思って見たが、しかしたぶん普通の人は、
 
「なんだこれは! こんなことが本当に、日本の裁判所では行われていると言うのか。あまりにひどい! 痴漢もののビデオを持っているから痴漢だと! そんなの、全然決まった話じゃないだろうが! そんなものは証拠と言えん。男なら誰でも見て当たり前だ! なのにこんなものひとつで人が〈有罪〉とされるのか!」
 
とか思うんじゃないでしょうか。
 
としたら、まあ、ごもっともな考えですが、おれの考えは違いましたね。話がこのシーンになるとこまできた時にはもう、おれにはこの『それでもボクはやってない』というシロモノは全部嘘なのがはっきりわかってましたから、これを見ても「よくもまあ」としか思わない。法廷で検事がこれをやったなら、必ず続きがあるというのを知っている。
 
しかし周防正行は、無知な観客を騙すために、その続きを見せないのだ。ちょっと考えてみてください。
 
《痴漢もののAVを持っているからこいつは痴漢に間違いない。だから証拠と認めて有罪》
なんて話があったなら本当にまったくとんでもありません。しかしそいつは、見るべきところを間違えています。
 
加瀬亮演じる〈ボク〉は、もうひとつ言っていましたね。「そ、それは友達にもらって……」と。これを見たとき、「おや」と思いはしませんでしたか。
 
痴漢で捕まった人間の住処を家宅捜索すると、痴漢もののビデオが出てきた。「これはなんだ」と見せたところ、
 
「そ、それは友達にもらって……」
 
と言う。このシーンで重視すべきは《そんなの持ってるからって》ではありません。この《友達にもらって》の方です。
 
おれに言わせればね。加瀬亮演じる〈ボク〉は痴漢の疑いをかけられて、まず刑事の調べを受けた。家宅捜索されてビデオが出てきたのなら、取調室で言われているに違いない。
 
「これ、お前のもんだよな」
 
「そ、それは友達にもらって……で、でもそんなの持ってるからって!」
 
「『友達にもらった』? だったらその友達の名はなんてんだ」
 
「な、なんで、そんなの言わなきゃいけないんすか」
 
「名前聞かなきゃ本当にもらったのかわからんだろが」
 
「タ、タケダ……」
 
「下の名前は」
 
「シ、シンジ……」
 
「タケダシンジ。どう書くんだ。武田真治か。おい平塚、ちょっとこれの裏取ってきて」
 
と。《友達にもらった》というのが嘘ならすぐにわかるわけだが、あなた、本当に、そのビデオは友達にもらったものと思いますか。
 
まずないでしょう。痴漢で捕まった人間が痴漢のビデオを持ってるからって痴漢と限りませんけれど、しかし聞かれて「それは友達にもらった」と応え、しかしけれどもその〈友達の武田真治〉なる人物は存在しない。
 
作品名:端数報告 作家名:島田信之