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って、そんなのあれと同じじゃねえかよ。〈光市母子殺害事件〉の2006年の差し戻し審理で、あの〈元少年〉野郎が、
 
「殺すつもりはまったくなく、たまたま喉に手が入って」
 
とか、
 
「あの子と遊んであげようと思って首に紐を結んであげたら」
 
とか、
 
   *
 
「(あれは彼女に生き返って欲しいという気持ちからした)山田風太郎の『魔界転生』の中に出てくる、精子を女性の中に入れる復活の儀式でした」
 
アフェリエイト:なぜ君は絶望と闘えたのか(中古本)
 
なんて言い出しやがったのと。
 
それに大体、さらに進めて考えてみるに話そのものがまるきりおかしい。仮に白紙に指を捺させることを本当にしていたとしても、平沢が自白した後その白紙は捨ててしまってあらためて取った調書に指を捺させ直せばいいのだ。なのにどうしてそうしなかった、という話になるじゃないか。
 
そこに気づけば、この話はやはり平沢が後から言い出したことに当時の弁護士がインチキ証明をしてくれる学者を探した。見つけたの大阪市立の大村得三というやつだった、という話なのだとわかる。だがそんなもん、〈光市母子〉のあれと同じく通らないのが当たり前。
 
ね? だからオーケンさん、
「証明されてるのに、検事側は認めようとしてないわけでしょ」
「そのとおり、そのとおり」
「いや、これ読んでちょっとゾーッとしましたよ」
「そうなんですよぉー。ほんっとに、そうなんだもん」
ではないのです。遠藤誠は〈光市母子〉のあいつらと同じ種類の弁護士であり、鬼畜をかばうための嘘は正義の嘘だと信じるためにあなたを騙して平気でいることができるのです。どうかその点に気づいてください。
 
――が、それはそれとして、検事の調べがほとんど拷問だったというのはこの事件の話の中で良くない部分だ。案外、ほんとに白紙に指を捺させるくらいやっちまっているかもしれない。その白紙は絶対に後で捨てているので、調書の指紋は偽造でなくて本物としても。
 
けれど、もしそうだとしても検事らはなんでそんなことしたんだろう。
 
平沢は一流の画家なのだ。このとき警視庁捜査第二課は〈七三一〉の線をまだ追い続けている。《もしそっちからホンボシが出てしまったらこの一流の絵描きさんを釈放しなければならなくなる。そうなったらまずいことに》という考えをまったく持たなかったのか。
 
それはちょっと信じ難い。なのにどうして無理な自白の強要をした?
 
 
アンドーナツのせいじゃないか。
 
 
〈帝銀事件〉が他の事件、〈二俣事件〉や〈免田事件〉、それから割と最近の〈足利事件〉といった事件と大きく違う、他には例を聞いたことがない特異な点は、無理な自白をさせたのが刑事でなくて検事であるということだ。《警察がまず調べて検察送致》という手順を省いて検事がやってる。これがGHQの差し金うんぬんというのもよく言われるが、うん。こればっかりは、おれもそうじゃないだろうかと思います。
 
 
アンドーナツの横車。
 
 
だと見るのが妥当じゃないか。「〈七三一〉の元隊員が犯人でGHQの実験だ」という憶測が、世界中の新聞に書かれてスターリンにまで読まれるのを止めたい男。あくまでおれの考えだが、アンドーナツがこの当時にそうだったことに関しては、まず疑いの余地がないのだ。
 
だから検察をせっついて、早く吐かせちまえと迫った。《日本の裁判は自白第一主義》だからどうこうとよく言われるが、アメリカの陪審員裁判なんかもっとひどい。
 
あれはワスプに有利な制度だ。街で殺人がひとつ起き、犯人がわからなければ適当な黒人をしょっぴいてきてホシに仕立てる。彼を裁く12人は、その全員がアングロサクソンのプロテスタント。やったのは黒人であってほしいか。ほしいとも。吊るされるのは黒人であってほしいか。ほしいとも。無実だと言う黒人がたとえほんとに無実としても、吊るせば事件は解決と思うか。思うとも。もちろんそう思うとも。
 
そう応える人間だけが陪審員になれる制度だ。アメリカ社会は50年ばかり前までそうだったし、今もどこまで変わったものか疑わしいとされている。
 
アンドーナツが白人至上主義者なら、その体制にドップリ浸かっているだろう。「できることなら〈七三一〉の元隊員でなければいいが」と思っていたところにその、《8万円で売れる絵を描くのに10万必要な男》が出てきてくれた。素晴らしい。ならば故郷で黒人を殴って自白させるように、そいつを早く吐かせちまえばと考えてもおかしくあるまい。
 
アンドーナツは悪い奴であったという。昔のアメリカで悪い奴、と言えばアンジェリーナ・ジョリー主演の『チェンジリング』って映画。あれに出てくるナントカ警部を思い出します。猛牛のように無智で、わが儘で、自分の思い通りにならねば何をやらかすかわからない。
 
アフェリエイト:チェンジリング(ブルーレイ)
 
と言えばこれを思い出すけど、あ、アンジェリーナ・ジョリーと言えばブラピと共演したのがなんかありましたね。こちらの私が書いたものなんかももしよろしかったら。
 
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作品名:端数報告 作家名:島田信之