北へふたり旅 31話~35話
北へふたり旅(35)第三話 ベトナム基準⑮
シゲ婆さんの憂鬱が増えてきた。
不機嫌そうな顔を見る日が、増えてきた。
理由は、贔屓(ひいき)。
「ベトナムには良くするんだ。
あたしたちには、何もしてくれないくせに」
しゃくちゃな顔がさらにしわだらけになる。
「このあいだのことさ。ベトナムを連れて食事へ行ったそうだ。
一度でもあったかい?。
あたしたちがSさんに、食事へ連れて行ってもらったことが」
ナスの収穫が終わった後、全員が参加する食事会がある。
毎年のことで、一年間の労をねぎらう意味の食事会だ。
「一年にいちどの食事会は有るさ。
けど、それだけじゃないか。
忘年会をするわけじゃなし、花見をするわけでもない。
それなのにさ。ベトナムさんは別扱いだ。
近所の居酒屋でへべれけになるまで、呑んだらしい。
全員で」
シゲ婆さんは呑めない。
へべれけがくやしいわけではない。自分が呼ばれないことが悔しいだけだ。
「たしかにあたしは呑まない。
だけどさ。野良番頭として10年以上も、ここで働いてきたんだ。
ベトナムは日本へきてまだ半年だ。
ずいぶん違いすぎるだろう、扱いかたが」
作品名:北へふたり旅 31話~35話 作家名:落合順平