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北へふたり旅 31話~35話

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 私でも呑まない人間は居酒屋へ呼ばない。
呼んでも場がしらけるだけだ。
しかし。シゲ婆さんの不満は止まらない。

 「このあいだだってそうさ。
 ケーキをもらっていった。孫の誕生日のケーキの残りだそうだ。
 もらったことがあるかい、あたしたち。いちどだってさ」

 ベトナム南部は甘いものを好む。
テプもドンも南部ホーチミン市の近郊からやって来た。

 「食べたかったのかい?。孫の誕生日ケーキの残りを?」

 「バカにしないでおくれ。
 残り物など誰が欲しがるのものか。
 あたしが言いたいのは、そういうことじゃない。
 一度だってあたしたちにくれたことがないだろう。ケーキも、甘いものも」

 「ときどき野菜をもらうじゃないか。
 それとおなじさ。
 そう考えれば、べつに腹もたたないけどね。俺は」

 「あんたはいいさ。それでも。
 だけどあたしは別格だ。この家にもう10年以上も勤めているんだ。
 もうすこし、あたたかくしてくれてもいいじゃないか」

 「冷た過ぎるかい?。Sさんは?」

 「そうは言ってない。あたしゃ。
 だけどさ。このあたしは10年選手だよ。
 あっちはやって来てまだ半年の、ど素人だ。
 それなのにこれほどまで待遇が違うのは、どうにも納得がいかないのさ」

 年功序列が軽視されることに腹を立てているのか、シゲ婆さんは。
そういうばシゲさんの立場は、いまだパートのままだ。
正社員になりたいのかな、シゲ婆さんは。

 「正社員?。それじゃ派遣会社から来たベトナムと同じじゃないか。
 あたしゃいやだよ。そんなのは。
 野良番頭なんだよ、あたしは」
 
 なるほど。やっぱりこの人は日本語を間違っていない。
野良で働く人の頂点。それこそが「野良番頭」であり、本人はやっぱり
自分が番頭と決め込んでいる。

 なにかと優遇されているベトナムに腹を立てているが、実はシゲ婆さんも
Sさんから優遇されていた。
そのことでいきなり、破局の日を迎えることになる。
その話は長くなるので、また明日。


(36)へつづく