北へふたり旅 31話~35話
北へふたり旅(32) 第三話 ベトナム基準⑫
「ストレスが溜まっているそうですね?」
10時休み。2人だけの時間。
ビニールハウスの中でSさんへ語りかけた。
「女房から聞いたのか。
さいきん何を考えているんだか、自分でもわからないときがある」
「悩みの原因は、3人目に来たトンですか?」
「鋭いな。ド・ストライクだ」
「見ていればわかります。イライラが丸見えですから」
「実はな。困り果てて派遣先に、チェンジしろと申し入れた」
「スナックの指名じゃあるまいし、チェンジなんて有りですか?」
「おまえさんだってわかっているだろう。
トンは大学を出ているくせに、かんじんの日本語がチンプンカンプンだ。
日本語を理解できないんじゃ、こっちの意向はつたわらねぇ。
もうどうにも我慢できないから管理団体へ、変えてくれと言ったのさ」
「可能なんですか。そんなことが?」
「いろいろあるでしょうが、もうすこし時間をくださいと言われた。
だがこっちの神経も限界だ。
いつまでも待っていたら、おれの神経がホントにいかれちまう。
どうにもならないならそのとき、トンを帰国させるという」
「契約半ばの強制帰国ですか。それではトンが可哀想だ」
「おい。おまえさんはトンの味方するのか。
おれの心配はしてくれないのか」
作品名:北へふたり旅 31話~35話 作家名:落合順平