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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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川の流れの果て(1)

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まず留五郎だが、留五郎は生粋の江戸っ子で、喧嘩に強い、情に厚い、または情にもろい男であった。

留五郎が小さい時分、留五郎の父親である藤助は魚屋をしており、母はおよねといい、藤助が働きに出ている間は小さな留五郎の面倒を見て、生まれたばかりの留五郎の弟、留吉をおぶって、家の仕事をしていた。

しかしある年の暮れの寒さの厳しい中、母およねはこじらせた風邪が元で病の床に就き、薬を買う金などなかった留五郎の家では粥を炊いて布団を二枚重ねてやるくらいしか出来ることはなかった。藤助は自分の分の布団をおよねに掛けてやり、留五郎は藤助が仕事に行く間、母の看病と留吉の世話をした。

藤助と留五郎の必死の看病の甲斐もなくおよねが亡くなってからは、藤助は悲嘆に暮れて毎日酒ばかり飲んで、子供のために仕事には出たが、家に帰ってからも飲みっぱなしで泣いたり喚いたりし、その内に荒っぽい飲んだくれになってしまった。
酔って暴れ始める藤助を留五郎が止めると藤助は留五郎に暴力を振るい、留吉を守って留五郎は毎日のように怪我をした。

そうして家がめちゃくちゃになってしまうと、留五郎は外で弱い者いじめをする奴を見つけると辺り構わず殴りつけるようになり、いじめっ子と喧嘩をしては叩きのめされたが、その度に強くなっていった。

留五郎が十二のある冬の夕、家に帰ると留吉が咳をしており、大事にならぬようにすぐに留五郎は寝かしつけたが、母の時と同じくひどい熱で、留吉は苦しがって朦朧と「おっかちゃん、おっかちゃん」と今は亡き母を目の前に見ているかのように泣いた。

藤助は飲んだくれて寝てしまっており、かといって子供の自分に何をすることも出来ず、揺すり起こせば暴れると思って留五郎はそうっと財布の中身を見たが、案の定ぼろ財布の中は空だった。

「ごめんな、留吉、ごめんよ」
そう泣いている留五郎に返事をすることもなく留吉はその晩が明けない内に息を引き取り、留五郎は物言わぬ留吉の枕元で一頻り泣くと、そのまま家を出て仕事を探し、巡り巡って十六の時に深川に来たのだった。

留五郎が紺屋に来てから、紺屋の親分は優しい人で、いつも黙っている留五郎をある晩酒の供に誘い、「おめえよ、なんだってそんなに黙ってんだい。なんかあるだろう、話すことくらいよ」と声を掛けた。しばらく留五郎は口を開かなかったが、「まあ何もねえってんならそれもいいがよ、おめえさんは一人でじーっと黙ーっててよう、放っといたら病気になりそうだ」ともう一口親方が言った時、留五郎は思わず、「病気になったのは、弟でい」と親方を睨んだ。
みんな喋ってしまうまでに留五郎は何度も泣いたが、「あの時俺が子供じゃなくて、お金さえありゃあ、ウチがあんな貧乏でなけりゃあ、留吉だって、おっかさんだって助かったんでい、親方、だから俺ぁ銭を稼ぐんでい!」と、そう言って留五郎は目の前の親方を睨んだ。

すると親方は留五郎を見据えて、「留五郎よ、そりゃあ銭は大事だ。だが、銭にしがみつくな。銭にしがみつこうとすりゃ、人を知らず知らずに振り落とす。そうすりゃ人はおめえに目もくれないで、後ろ指を指すようになる。これはほんとうにそうなる。留五郎、人を助けてやれ。そうすりゃおめえの困った時、その全員がおめえを持ち上げてくれる。これもきっとそうなる。今晩はもう寝な」と、そう言って留五郎を寝かせた。

留五郎は半信半疑ながらも、その内に仕事の上で困った者などの手助けをしてやったりすると、後で忘れずにその者が「あん時ゃ世話になったからよ」と自分を助けてくれるのが分かった。それから留五郎はいつも周りの者に気を配り、目を届かせるようになって、親方への忠義から仕事に精を出した。そんな折、いつもぼーっと本ばかり読んでいる三郎が目に留まったのである。