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やまぐちひさお
やまぐちひさお
novelistID. 68191
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キャンディーしかないお菓子屋さん 第一話 同級生キャンディー

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お父さんは息を一息つくとふと思い出したように話を続けた。
「あっ、でも君がマサル君だからその事はもう知っていたのかと思った」
「そうよ、それに慎之介さっきマサル君の事をみーことか呼んでたけど、どうして?」
タエも思い出したようにマサルに聞き質した。困ったマサルは慎之介にささやいた。
「慎之介、まずいね。そろそろあれ使うよ」
「ああ、仕方ないね。じゃあ出して」
慎之介のことばを聞いたマサルはポケットから小さな紙袋を出した。その中には小さな赤いキャンディーがいくつか入っていた。
「うん、じゃあ僕が説明します。えっと、その前に気持ちを落ち着けるためにこのキャンディーをみんなで食べましょう。とっても美味しい特別製なんです」
そう言いながらマサルはキャンディーを一つずつタエの家族に配った。そして何事かと思って応接間の前まで来ていたお手伝いのサエさんにも一つ手渡した。
「じゃあ、みんなで食べましょう」
マサルはそう言うと自分の口にもキャンディーを一つ放り込んだ。つられてみんなもキャンディーを口に入れた。だがマサルが食べたキャンディーだけがピンク色をしていたのには誰も気付かなかった。

「いやあ、疲れたね、慎之介」
「うん、でもうまくいってよかったよ。これで不幸の種を1つ取り戻せたし。あと1つ見つければ僕も天使の国へ帰れるよ。みいこ本当にありがとうね」
みいこのマサルと灰色ネコの慎之介はタエの家の前を歩きながら話していた。
「でもあの赤いキャンディー本当に効くね」
「ああ、おばあちゃんのキャンディーは強力だからね。タエちゃんも家の人も今まで欲鬼のせいで起こった事は全部きれいに忘れちゃったものね。タエちゃんったら、アレッ? とか言っちゃって」
「みんなが気付く前に庭に出たからマサルが来た事も覚えてないしね」
「ああ、でないと明日本物のマサルが困っちゃうからね。汗いっぱいかいてさ」
二人は大声で笑った。笑い終わった時、急にマサルが足を止めた。その身体がくるくるとその場で回転し始めた。すごい速さで廻り始めたと思ったらぴたりとその回転が止まり、そこには元の姿のみいこが立っていた。
「おかえり、みいこ」
慎之介が笑いながらそう言うと、みいこもニッコリと笑って答えた。
「ただいま、やっぱりこっちの方が軽くていいや。慎之介もこっちの方がいいでしょ?」
「うん、やっぱりその方がかわいいよ」
そう言うと慎之介は何だか照れたようにトットットッと先に進んで歩き始めた。
これで一件落着と思った二人だった。 だがそれだけでこの事件は終わらなかったのだ。

【その7】

みいこと慎之介が家まで近づいた時、何か様子がおかしい事に二人は気付いた。
大勢の人がみいこの家を取り囲んでいる。そして玄関の前には救急車の白いボディーとくるくる回る赤いランプが見えた。パトカーもその近くに二台止まっている。
 みいこは嫌な予感がしてあわてて家のほうに向かって駆け出した。慎之介もその後に続いた。人ごみをかき分けて家の門のところまでみいこがたどり着いた時、家の中から誰かが救急隊員の持つタンカに乗せられて運び出されてきた。
タンカに乗った人の顔を見るなり、みいこは無我夢中でその横まで飛んでいった。止めようとする警察官を振り切って、みいこはタンカの上の人にしがみついた。
「お、お母さんっ!、どうしたの、どうしたの?」
意識を失ったままのお母さんは何も答えず、ピクリとも動かない。
みいこは救急隊員の人にタンカから引き離され、お母さんの乗せられたタンカは救急車の中に運び込まれた。救急隊員の手を振り解くとみいこは救急車の運転席の窓に走り寄り、運転している救急隊員の人に叫んだ。
「あたしも連れてってください。お母さんなんです。お願いします。お願いします」
運転席の窓が開いているのでみいこが叫ぶ声が聞こえているはずなのに、運転席の救急隊員は知らん顔をしている。みいこは何度も声が枯れるほど叫んだ。
救急車の後ろのドアがばたんと閉じられた時、運転席にいた救急隊員はエンジンをかけながらみいこの方を見下ろした。そして一言こう言った。
「ダメだにゃー、お母さんはさよならだにゃー」
その声を聞いたみいこと慎之介はその場に呆然と立ちつくした。

キキッとタイヤを鳴らしながらものすごい勢いで救急車が発車した。一緒に乗るはずだった他の救急隊員も、おいてけぼりをくらって唖然としている。みいこは走り去る車を追いかけて猛然とダッシュした。みいこは必死で走った。慎之介もみいこの横を四本の足がちぎれるくらい動かしながら走っている。しかしスピードを上げた救急車と二人との距離はだんだんと開いていく。
(だめだ、お母さんが欲鬼に殺される)
そうみいこが思った時だった、みいこの洋服の襟が後ろから誰かにぎゅっとつかまれた。同時に慎之介も首の後ろ側の皮を誰かにつかまれていた。あっという間もなく、みいこと慎之介の身体は空中に浮いていた。そしてどんどん救急車との距離が縮まっていく。みいこと慎之介には何が起こったのかわからなかった。電信柱より少し高い空中をみいこたちは滑るように飛んだ。下に見える救急車との距離は20メートルくらいまで縮まった。救急車は道を右に左に曲がって近くを流れる大きな川の土手道に入っていく。
あたりはすでに薄暗くなってきた。救急車はあとをつけられている事には気付いていないのか、国道が通っている大きな橋の下まで行くと周りから目立たない橋の真下に停車した。それに合わせてみいこ達の身体も地面に向かって降りていく。
上を見上げたみいこはそこにキャンディーやさんのおばあさんが飛んでいるのを見た。
 おばあさんは片方の手でみいこの襟をもう片方の手で慎之介の首の皮をつかんでいた。おばあさんは橋から少し手前の土手にみいこと慎之介を下ろした。そしてとても優雅なしぐさで右足のつま先、そして左足のかかとを地面に下ろして着陸した。後ろ向けになったおばあさんの背中には真っ白な羽が生えていた。両足を地面にしっかりとつけたおばあさんは羽を内側にたたんで、みいこ達の方を振り返った。おばあさんの体全体から光が出ていた。 眩しいというほどではないのだが、身体全体がぼんやりと暖かい光に包まれている。
「おばあちゃん、どうしてここへ?」
慎之介が不思議そうに尋ねた。
「それは後で説明する。とにかく今はみいこちゃんのお母さんを助け出す事が先じゃ。欲鬼は命を奪おうとしておる」
おばあさんが言い終わった時にはすでにみいこは救急車の近くまで駈けていた。車の後ろに飛びついたみいこは両開きのドアを思いっきり引っ張った。バタンッという音と共に後ろのタンカ挿入口が開いて中の様子が見えた。お母さんがタンカで固定されている枕もとには今にもナイフをお母さんののどに付きたてようとしている欲鬼の姿が見えた。
「おかあさんっ!」