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やまぐちひさお
やまぐちひさお
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キャンディーしかないお菓子屋さん 第一話 同級生キャンディー

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驚いてベッドの上に上半身を起こしたみいこの首に灰色ネコの慎之助がぶら下がりながら、前足のプニョプニョした部分でみいこのほっぺたをペタペタと叩いていた。
「てめぇ~、慎之助ッ!」
せっかくのケイ君とのひとときをじゃまされたみいこは慎之助を畳の上に投げ飛ばした。女子プロレスを見て覚えたボディースラムの要領だ。きれいに決まった。ギュッという変な音がしたぞと思ったみいこはちょっとドキッとして慎之助の方を恐る恐る見てみた。
動かない。。。慎之助は背中を畳の上にくっつけて、つまり仰向けのまま大の字でお腹を見せていた。
「しん…の…すけっ」
みいこが声をかけても慎之助はピクリとも動かない。
みいこは慎之助を抱き上げた。小さな灰色ネコはだらりと両方の前足を身体の横にぶら下げたまま動かなかった。死んだの?…みいこはどうすればいいかわからなくなった。ただ必死に慎之助の名前を呼ぶ事しか出来ない。そしてもう一つみいこに出来る事はぐったりとした慎之介の身体を小さな手で撫でまわす事だけであった。しばらくすると…
「ゥクッ、クックックッ」
息を詰まらせたような笑い声が腕の中から聞こえた。
(あれっ、こいつ生きてる、という事は…だまされた!このやろー)
みいこが気付いた時には慎之介は、お腹を抱えてみいこの腕の中で大笑いしていた。
「こらっ、慎之介っ!」
みいこの腕から飛び降りて部屋の中を逃げ回る慎之介をみいこは追いかけまわした。
「これ、みーこ何ガタガタやってんの。早く下りてきてご飯食べなさい」
お母さんの呼びかけにはーいと返事したみいこは仕方なく、部屋の隅っこで背中の毛を立てている慎之介をギロリとひと睨みして階段を下りていった。

【その3】

家を出て学校に向かうみいこは歩きながらずっと考えていた。どうすればタエとタエのお父さん、お母さんを助けられるのか。昨夜も顔を洗った後に慎之介と長い時間相談したのだがいい考えが浮かばなかったのだ。
一人で考え事をしているみいこを塀の上を歩いている慎之介は心配そうに見守っていた。今朝投げ飛ばされた時に打った背中がまだ痛む慎之介であった。

「こらっ!」
突然後ろから誰かに肩をつかまれたみいこは、驚いて70センチくらい飛び上がった。着地してから後ろを見るとタエがニコニコして立っている。一瞬みいこは
アッと思ったが、いつものタエと同じ様子なのでこわばりかけた顔をほぐしてニッコリと笑い返した。
「もうー、タエびっくりするじゃん」
「あはは、元気印のみーこが、何かお化けみたいにどんよりと歩いてるからさあ。気合を入れてやったんだぞっ! あたしに感謝しろよっ、みーこっ!」
タエは大きな声で笑った。
(あんたの事を心配してどんよりしてたんだよ!)
そう言いたかったみいこだが、もちろんその言葉はごくりと飲み込んだ。
「よしっ、気合だあー!」
みいこが大きな声でそう言うとタエは面白そうにゲラゲラと笑い、手をつないだ二人は全速力で学校に向かって駆けだした。
その様子を塀の上から見ていた慎之介は薄い眉毛の間にしわを寄せてその場に立ち止まった。絶対に助けてあげなきゃ、慎之介はそう自分に言い聞かせた。
慎之介は学校の授業中みいこのそばにいるわけにもいかないので、昨夜みいこと相談した通り、タエの家の様子を探りに行くことにした。家の場所はみいこから聞いて頭に入っている。学校からみいこの家の方角に少し進むと慎之介は三叉路になった道路を右に曲がった。道に沿って進むと、大きなお屋敷が道の両側に現われはじめた。
「うわあ、すっごい家ばっかりだなあ。僕も人間の時にこんな家に住みたかったな」
思わず声に出して独り言を言ってしまった慎之介は、前足で口を押さえて一人で苦笑いした。 バカだな俺って…慎之介は独り言をまた声に出すと顔をゆがめてさみしそうな笑い方をした。知らない人が見たらきっと変なネコだと思うだろう。

覚えていた番地には慎之介の二十倍くらいの高さの、まるでおじいちゃんが好きだったテレビの水戸黄門にでてくる代官屋敷のような大きな門が堂々と立っていた。泥棒でも戸惑うような高さの塀だったが、慎之介にとっては全然問題ない。まだ羽はもらえないが、天使の勉強と厳しいトレーニングをこなしてきた慎之介のこと、ニャッと一声上げて飛び上がると次の瞬間には正門のすぐ横の塀の上に立っていた。ストンと塀の内側に降りた慎之介は足音も立てずに奥の母屋の方へ小走りで近づいていった。
 建物の周りをぐるりと一回りした慎之介は、母屋の応接間からなにやら人の話し声が聞こえて来る事に気付いた。話し声のする部屋の窓際まで行った慎之介はそっと壁に爪を立てて窓枠までよじ登った。
「にゃははっ、どうだいご主人、今度の契約もうまくいっただにゃー?」
聞いているだけで誰もがイライラするような甲高い笑い声が、窓に押し当てた慎之介の耳に聞こえてきた。きっと欲鬼の声にちがいないと慎之介は思った。慎之介は前足に力を入れて部屋の中が覗けるように身体を少し持ち上げた。
その部屋にはさまざまな外国の調度品が並んでおり部屋の真ん中には大きな革張りのソファーが向かい合わせで置いてあった。二人掛けのソファの上にえらそうにふんぞり返っているのが欲鬼のようだが、背中を向けているので窓からは顔を見ることが出来ない。
「はいっ、おかげさまで二億円儲ける事が出来ました。これも欲鬼様のおかげです」
「ふむふむ、おみゃーらもでゃーぶお金様のありがたみがわかって来たよーだにゃ」
「はいっ、それはもちろん。家内もとても喜んでおります」
そういうと欲鬼と話していた背広姿のおじさんが、となりに座っていたきれいな色の洋服を着たおばさんのほうを振り向いた。そのおばさんはきれいにお化粧をしていた。慎之介は二人を見てタエの両親だとすぐにわかった。二人ともタエにそっくりだ。
「先生、本当にありがとうございました。これでタエを中学から名門の慶栄学園へ行かせる事も出来ます。この世の中はすべてお金です。私たちはいつも不安でした。仕事がうまく行かなくなったらどうしようとか、そういう不安がいつも付きまとっていました。」
タエのお母さんが一息入れた時に、ふむふむと欲鬼は相づちをうった。
「しかし、先生がこの家にいらっしゃってから、私共は汗水たらして働く事のばからしさを教えていただきました。お金はどんな方法を使って手に入れてもお金に変わりはないのです。人をだましても、お金を手に入れた方がだまされた人間よりも優れているのです」
「ふむふむ、でゃーぶお母さんもわかったみたいだにゃ」
欲鬼が満足そうに笑っている。
「で、今度はどうするにゃ?もっと人を利用してお金様をためるにゃ?」
欲鬼は人差し指で鼻をほじりながら横柄な口調で二人にただした。そのことばを聞いて、口を開いたのはお母さんの方だった。
「実は先生お願いが一つあります。うちの娘のタエの事なんですが、どうも私どもが最近変わったと言って、あまり快く思っていないようなのです。お母さんたちは欲張りになったとか、お金のことばっかり言ってるとか反抗するのです、それで主人とも相談したのですが、タエにも先生のお教えを頂いた方が良いのではないかと思うのです」