北へふたり旅 26話~30話
北へふたり旅(28) 第三話 ベトナム基準⑧
ベトナム実習生の3人はこの半年間、年中無休で働きつづけた。
「コンビニだって深夜営業をとりやめる時代だぜ。
政府も企業も働き方改革をすすめてる。
だがよ。ベトナムは別だ。
俺たちは日本へ稼ぐためにやってきた。もっとたくさん仕事したい。
土曜の定休もいらないと、かれらのほうから言い出した」
11月の半ば。キュウリが最終段階にはいる。
この頃から来春の、ナス苗の準備がはじまる。
キュウリのあとは、ホウレンソウとネギに切り替わる。
言われてみればベトナム実習生の3人が、仕事を休んだ記憶がない。
規定で、1日の就労は8時間。それを超えると25%増しの残業。
週1日の定休日。こちらは出勤すれば25%増しの休日出勤。
「3時頃に仕事が終っちまうときもある。
だが彼らは帰らない。
ボス。仕事がないかと聞いてくる。
あの顔を見るとしょうがねぇ、何かないかと仕事を見つけ出す。
使ってるんだか、使われているんだか、分かんなくなってきた・・・」
ホウレンソウの出荷も変える、と言い出した。
「変える?。どんな風にかえるの?」
「視察でとなり町のホウレンソウ農家を見てきた。
実習生が一列に畑に座り込み、収穫しながら荷ごしらえをしていた。
あれなら早い。じつに効率がいい」
その光景なら見たことがある。
コンテナをかかえた実習生が、ホウレンソウ畑に座り込む。
5~6株をカマで切り取る。
根元の汚れを落とし、枯れやすい双葉を取りのぞく。
そのままコンテナへ並べる。あとは出荷用の袋に詰めるだけだ。
作品名:北へふたり旅 26話~30話 作家名:落合順平