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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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このコーヒーを飲み終えたら

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 それから、本城奈美恵の様子が気になった達也は、彼女を追いかけて外に探しに出た。(きっと河川敷にいる)そんな気がして、小走りでそこへ向かった。
 息を切らせながら、土手の上からグランドを見渡したが、彼女はここには来なかったようだ。それでベンチにグランドとは反対向きに座って、一息入れていると、遠方の住宅街の道を歩く女性の姿が目に留まった。その着ている作業服で、すぐに松井かなみだと分かった。
(今日は土曜なのに、夜勤帰りかな。電話局ってそんなに不規則勤務なのかな? また辛そうに歩いているように見える)
 気になった達也は、松井かなみの後を付けてみることにした。すぐに立ち上がり、土手をずるずると滑りながら走り下りて舗装道路に出たが、もう松井かなみの姿は見えない。でもおおよそ家の位置は判っている。
(こっちの方角に向かっていたということは、跨線橋を通るルートのはずだ)そう考え、迷わずその方角に走り出したが彼女を見付けられず追いつけない。どこに行ったのか? 線路沿いに出て、その線路を跨ぐ陸橋の上から見下ろすと、少し先に彼女の後姿が見えた。
(早足だな)そう思って、歩道の階段を駆け下りて、30メートル先を歩く彼女をようやく尾行することに成功した。
 距離は詰めずに、ゆっくりと後を付けた。なぜこうしているのか達也本人にも分からない。ほんの興味本位か遊び心、自宅に帰って紗英と顔を合わすのが嫌なのか。それとも松井かなみに惹かれているのか、いろいろ考えてみた。本当のところ、今日は顔がしっかり見えないので、彼女が思い悩んでストレスをため込んでるのか分からない。それも気になって後を付けているのだろう。そうしているうちに先日の地下道の出口近くに来たら、彼女は左に道を曲がった。この前と同じ道だ。その先の丁字路で右に曲がり、坂道を登っていくはず。その先に彼女の家があるのは間違いない。
(どんな家に住んでるんだろう。一人暮らしか。はたまた家族がいるのか)
 距離を縮めようと曲がり角まで少し小走りに近付き、角からのぞくように彼女を見たら、もう彼女は思っていたより遠くに行ってしまっている。慌てて、通りに飛び出して、また急ぎ足で後を追った。次の丁字路までに大分追い付いた。あと10メートルくらいになったところで、松井かなみは右に曲がり、坂道を登り始めた。ゆっくりとその曲がり角に近付き、建物の塀から顔をのぞかせると、坂道を上る後姿を確認して、その場に待機した。ここからは、達也にとっては通るはずのない道だ。そこで松井かなみに気付かれると、変に思われてしまう。
 しばらく待つと今度は、彼女が右に曲がるのが見えた。達也はすぐに追いかけて、坂道を駆け上った。曲がり角に付くと、先ほどと同じように、石垣の角からゆっくりと覗き込んだ。彼女が曲がったのは、狭い路地のようだ。
(あれ? いない)
今曲がったばかりの路地は結構長く、松井かなみの歩く姿はなかった。(ということは、この辺のどれかが彼女の家なんだな)と思い、深追いは禁物、引き返すことにした。