よ う こ そ
(九)宅配便
春子にとって夢のような一週間が過ぎ、帯広空港に戻ってきた。帰りは茂と春子の子どもだけの旅となったが、神戸空港の搭乗口まで彩香が付き添い、空港職員を通して乗務員に二人のことを頼んでいった。そのせいか、何度か客室乗務員が春子の様子を見に来てくれた。優しいお姉さんに親切にしてもらい、春子は空の旅を楽しむことができた。
そして、到着した空港には勲と貴美子が待っていた。
「父さん、ばあちゃん!」
二人を見つけた春子は駆け寄り抱きついた。
「甘えん坊は変わってないなあ」
「そんなことないよ。兄ちゃんと二人だけで飛行機に乗ったんだもん」
「飛行機のお姉さんが何度も様子を見に来てくれたからだよな?」
「そうか、子どもだけだから気にかけてくれたんだな」
「違うよ、おばさんが向こうの空港で、僕たちのことを頼んでくれたんだ」
仲間に借りたワゴン車に乗り込み四人は村を目指した。車内では春子の話が止まらない。時おり、茂がそうじゃないよ、と口を挟むが春子はお構いなしだ。空港からの一時間で、勲と貴美子は自分たちもすっかり旅行に行って来た気分になってしまった。
久しぶりのわが家に着いた子どもたちは、懐かしさで胸がいっぱいになった。たった一週間ではあるが、家を離れたことがなかった二人には特別な経験だったのだ。
貴美子が用意した二人の好物が並ぶ食卓で、また春子の話が始まった。
「おばさんの家、お城みたいなんだよ。それでね、お姫さまみたいなお部屋を兄ちゃんと春子で使っていいって。ふわふわのベッドで気持ち良かったなあ」
「お前たちふたりで寝たのかい?」
「一晩だけだよ。次の日から春子はおばさんの部屋さ。おかげで僕はのびのびとくつろげたけどね」
「そうか。春子はおばさんと寝たのかい?」
「うん、おばさんとてもやさしくてまるで……」
そこまで言いかけて、春子は好物の卵焼きを口に入れた。
「まるでなんだい?」
「忘れた、ばあちゃんの卵焼き、ホントおいしい」
翌朝、眠い目をこすりながら茂が牛舎へやって来た。
「おう、よく寝たな」
牛の乳を搾りながら、勲が声をかけた。
「父さん、おはよう」
「春子はずいぶんと楽しそうだったが、おまえはどうだったんだ?」
「それって、おばさんの感想?」
「え? あ、いや、旅行のことだよ」
「それなら、楽しかったよ。ディズニーランドもスカイツリーも、テレビでしか見たことなかったからね。東京の人の多さには本当にびっくりしたよ。あと、新幹線も乗り心地最高だったな」
「そうか、いろいろな所へ連れて行ってもらったんだな。それはよかった。春子が話してばかりで、おまえの話が聞けなかったもんな」
「ああ、春子、とても楽しそうだった。本当におばさんのこと好きみたいだ。空港で別れる時、抱きついて泣き出してしまったんだ」
「え! そんなことひと言も言ってなかったな」
「そりゃあ、言わないさ、そんなこと」
勲は茂の話に驚いた。そこまで彩香に懐いていたとは……。
「父さん、僕実は、春子、ホームシックになるかと心配してたんだけど、全然そんなことなかった。逆に今は、おばさんが恋しいんじゃないかとそっちが心配だよ」
その心配通り、二、三日すると、春子はめっきり静かになった。帰って来た時の高揚した春子は影をひそめ、いつもぼんやり外を眺めていた。どうしたのか? と声をかけると、もうすぐ夏休みが終わるから、と答えた。
一週間後、勲宛てにたくさんの宅配が届いた。子どもたちを手ぶらで帰すために、茂と春子の荷物を後で宅配で送るという連絡があったが、土産物の方がはるかに多かった。
子どもたちが行く先々で買ってもらった土産物がどっさり、勲や貴美子への土産、そして、村のみんなの分まで。
その中から自分の土産を見つけた春子は、また元気を吹き返した。買ってもらった服を着て、帽子をかぶり、靴を履いて、外へ飛び出すと、みんなに見せてくるー そう言って走って行った。
「俺も、これをみんなに渡してくるけど、茂も来るか?」
二人は軽トラに乗って、集会所へ向かった。荷台には、観光地の土産物の他、ビールや酒、つまみなどたくさんの差し入れが積んである。
「父さん、これからどうするの?」
「どうするって?」
「おばさんと再婚するの?」
驚いた勲は、思わず急ブレーキを踏んでしまった。
「いきなり、なんてこと言い出すんだ。ああ、びっくりした」
ゆっくり車をスタートさせながら話し始めた。
「この前、初めて会ったばかりの人だよ。お前だって知ってるじゃないか」
「真剣に考えなきゃ、かわいそうだよ」
「何、生意気なこと言ってるんだ。彩香さんに失礼だぞ」
「違うよ、春子がだよ」