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よ う こ そ

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(三)お客さま


 勲は早速、大歓迎の旨の返事を書いた。そして、いつもの集会で仲間たちに進展を報告した。
「例の人が遊びに来てくれるというんだ。結婚とかそういうことではなく旅人としてだけど」
「お、敵情視察か」
「だから、結婚とかではなく――」
「勲、それ、立派な見合いだよ」
「そうさ、よくテレビでやってるじゃないか、地方の嫁不足のため全国から募集する○○の花嫁とかいう集団お見合い」
「え、てことは、俺も独身だから権利あるってことだよな?」
「おまえ、ずうずうしいな、何もしないで仲間の彼女を取ろうってか?」
「そうだよ、花嫁候補はひとり、だから婿候補もひとりさ」
 そんな仲間たちの勝手な言い草に、勲はこう言うしかなかった。
「だから、旅行に来るだけだってば……」
 
 
「お父さん、その人いつ来るの?」
「夏休みに入った頃になるかな」
「学校が休みになってからだね」
 勲と茂の会話を聞いて、春子は不安そうに言った。
「春子も会わなきゃダメ?」
「うちへ来てくれるお客さんだから、こんにちはくらいは言えるよな?」
 勲の言葉に春子が尋ねた。
「それだけでいいの?」
「ああ、いいよ」
 すると、貴美子が口を挟んだ
「勲、写真はないのかい? 顔を見ておけば春子も少しは安心できるんじゃないかい?」
「そうだ、ばあちゃんの言う通りだ、写真はもらってないの?」
 茂もそれは妙案だとばかりに身を乗り出した。
「ああ、それが、書いてみたんだが、送ってくれなかった」
「こっちの写真は送ったのかい?」
「いいや」
「勲、先に送ってからお願いするものだよ、それじゃ仕方ないな」
 貴美子は呆れたように勲を見た。
 
 
 訪問日が近づいたある日、農道で勲はまた、正夫と出くわした。
「よ、勲、もうすぐだな、見合い」
「だから見合いじゃないって」
「地区を挙げて、花嫁候補を歓迎しようって、みんな張り切っているぜ」
「なんだって!」
「ほら、この前言っていたテレビの影響さ。母ちゃん連中もご馳走作る用意をしているぜ。男たちは集会所を片付けているしな」
「やめてくれよ、単なるウチへの客だ」
「もう遅いと思うな。とにかく、当日は集会所に案内しろよ。じゃあな、楽しみにしているよ」
 
 
 家に帰って母にその話をすると、貴美子は大笑いして言った。
「み~んな退屈なんだよ、だからここでは大事件なんだろうさ」
「退屈しのぎにされてたまるか!」
「いいじゃないか、その彩香さんだっけ? その人にとってもきっと楽しい旅行の思い出になるさ」
「単なる旅行じゃない、俺にとっては大事な見合いなんだ」
「あれ? みんなには見合いじゃないと言って回っていると聞いたけど」
「そりゃあ、人には言えないさ」
「そうさな、顔も知らない相手だもんな。あまり期待しない方がいいよ。単なるお客さまだ」
 
 
 そして、その当日がやってきた。
 駅まで迎えに行く勲をみんなで激励して見送った。
「いよいよだな。しかし、今の時代、顔も声も知らない人と結婚を前提にご対面なんてそうはないな。勲のやつ、どんな気持ちだろうな」
「やっぱ、髭が生えてるんじゃないか?」
「おまえ、まだそんなこと言っているのか。ここまで来たら少なくとも女であることは間違いないさ」
「あとは見た目か……。まさか牛みたいな体型だったりして」
「いや、ガリガリよりはその方がいいぜ。労働力になるからな」
 
 そろそろ着くという連絡が入り、仲間たちが再び広場に集まってきた。
「集会所の準備は万全だし、あとはお姫さまの到着を待つばかりだな」
「どんなお姫さまだろうな? のっそりした牛タイプか、暴れ馬のじゃじゃ馬か」
「おまえたち、人の不幸を待っているようにみえるぞ」
「だって、こんなところの男やもめに遠路わざわざ会いにくるなんて、変わり者に決まってるさ」
「まあな」
 
 勲の軽トラックが遠くに見えてきた。勝手なことを言いつくしたみんなはただ黙って車を目で追っていた。
 そして、とうとうその時はやってきた。
 勲が降りてきて助手席にまわり、ドアを開けた。そして、みんなが固唾を飲んで見守る中、一人の女性が降り立った。
 その姿に、みんなはしばし呆然と立ちすくんだ。

作品名:よ う こ そ 作家名:鏡湖