よ う こ そ
(二)家族会議
今日は日曜日。と言っても生き物相手の仕事に休日などない。子どもたちにせめて行楽気分を味あわせてやりたいと、天気がよければ昼は外でピクニックと決まっていた。もちろん放牧している牛たちと一緒に。
勲の母喜美子の手作り弁当を広げ、勲と長男の茂、長女の春子はあれこれつまんでは満足そうに口いっぱいに頬張った。
「ばあちゃん遅いね?」
春子の疑問に、勲は食事の手を休め、子どもたちを見た。
「実はな、お前たちに大事な話があるんだ。ばあちゃんにはゆうべ話した」
「父さん、何? なんだか怖いな」
茂も手を置き、父の方を向いた。
「母さんが亡くなってから五年になるよな――」
「もしかして、新しいお母さんが来るってことか?」
父の言葉を遮り、茂が睨みつけるように言った。
「え? 父さんほんと?」
不安そうに春子が聞いた。
「まあまあ、二人とも黙って聞いてくれ。
母さんの代わりなどどこにもいやしない。おまえたちの母さんは亡くなった母さんだけだ。でも、もう母さんにはどんなに会いたくても会えない。だけど、俺たちはちゃんと生きていかなくてはならないんだ。もう小学生なんだからわかるだろう? 春子。
今は、ばあちゃんが家のことをやってくれているが、ばあちゃんもこれから歳をとっていく。いや、今だって大変だと思う」
「私、ばあちゃんの手伝いする!」
春子が叫んだ。
「ああ、そうしておくれ。でも、春子はまだ大人のようにはできないだろう?」
「やっぱり、新しい人が来るんだね……」
茂がうつむいてつぶやいた。
「いや、そう簡単にはいかないさ。その人が本当にウチに来たいと思ってくれるかだってわからない」
「え? じゃ、まだ決まったことではないんだね?」
「ああ、もちろんさ。おまえたちの気持ちも聞かずに決めるわけないだろう?」
「僕は今のままがいい」
「私も!」
「まあ、そう今すぐに決めてしまわないで、ゆっくり考えてほしいんだ。さあ、デザートでも食べようか。あの牛たちがくれた牛乳で、ばあちゃんが作ったプリンだ」
ちょうどその時、近くで草を食べていた牛がモーっと泣いた。
「牛さんが食べなって言っているんだね」
春子は機嫌を直してプリンをおいしそうに口に運んだ。
「父さん、その人どんな人?」
やはり気になるのか、茂が聞いた。
「実は、父さんもまだ会ったことないんだ」
「な~んだ、そんなでよく僕たちに話したね?」
「だって、おまえたちやばあちゃんの気持ちを確認してからでないと、話を進められないじゃないか」
「わかった。みんなで一緒に会ってみようよ。父さんだけでなくみんなのお見合いさ」
「なんだ、それ?」
「会ってみてから、またみんなで話し合おうよ」
「春子はやだな……」
小声でつぶやいた妹の耳元で、茂は囁いた。
「大丈夫だよ春子。こんな田舎で、それもいきなりふたりの子どものお母さんになろうなんて人はいないさ」
家族に打ち明けホッとしたその夜、勲は彩香からきた二通目の手紙を取り出した。この手紙が来るかどうか、本当に気を揉んだ。そして、これを読んで家族に話す決心ができた。
『 富田勲さま
ご家族をご紹介いただき、お会いしてみたくなりました
みなさんがお暮らしの環境もこの目で見てみたいと
ただ、私が富田さまの望む家族になれるかは難しいとも思っています
ですので、一度、旅人としてお伺いしてもよろしいでしょうか?
三笠彩香 』