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やまぐちひさお
やまぐちひさお
novelistID. 68191
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くだものオオカミの悩み

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 次の日の朝、朝食をすませるとウルは一目散に西の山に向かって駈けました。風がウルの黒い艶やかな毛を一本残らずうしろの方へなびかせています。ウルは思う存分大地をけり、風を切り裂いてひたすら走りました。
太陽が真上に昇ってきた頃、ウルはようやく山のふもとへたどり着きました。山のふもとにはウルたちが住んでいる草原では見られないような背の高い木々が茂っていました。
山への入り口を探したウルはひたすら頂上に向かって再び駈けました。
頂上へ着くと付近は大きな岩がたくさんある岩山になっていました。
一番大きな岩の上に駆け上ったウルは今来た方角を見下ろしてみました。今まで見たことのない景色が目の前に広がっています。遠くて家までは見えませんが、岩山から見下ろした草原がどこまでも緑であまりにも美しかったので、ウルは思わずウォーンと大きな声で叫びました。
 こんなに気持ちのいい遠吠えは初めてでした。ウルが最高の気分で岩の上に腰をおろした時です。いつの間にかウルは岩のまわりを動物の群れがとり囲んでいる事に気付きました。
ウルは驚きました。なぜなら自分を取り囲んでいる動物が全員自分とそっくりな姿かたちをしていたからです。ヒツジの中では自分だけが違う姿をしていたのでまさか自分とそっくりのヒツジが山にいるとは思わなかったのです。
 その中の一番強そうなヒツジがウルに近づいてきました。
「おい小僧。お前はどこの者だ。俺たちの縄張りで何をしている?」
 恐ろしい声でした。
「いや、僕は向こうの草原から来たウルっていうヒツジだけど」
「お前がヒツジ? ガッハッハ面白い小僧だ、気に入った。お前に昼飯を食わせてやる」
 ウルが言った事を冗談だと思ったオオカミのボスはウルを自分の家のある方へ連れて行きました。
ウルはずっと走ってきたのでお腹がペコペコでした。
ご飯を食べさせてくれるなんてありがたい、山にはどんなフルーツがあるのかなとウルはうきうきしてきました。
テーブルにつくとその上には見たこともないフルーツがのっていました。何か柔らかそうでピンク色をしたかたまりでした。持ってみるととても重いフルーツです。
「さあ、遠慮なく食え」
「いっただっきま~す」
 ウルはお腹が空いていたのであまり深く考えずにテーブルの上のかたまりを噛んでみてがく然としました。
「こっ、これは…なんて美味しいんだ。こんなに美味しいフルーツは食べた事がない。草原にある木には出来ないんだなきっと、うんきっとそうだ」
 一人でブツブツいいながらウルはお腹いっぱい食べました。
「ご馳走さま。すごく美味しかった。これはなんというフルーツですか?」
「ガハハ、本当に面白い奴だな。何がフルーツだ。これは今朝とって来たブタの肉だ」
「えっ?!」 
 ウルは一瞬自分の耳を疑いました。
「最近いい獲物がいなくてな。たまにはヒツジの肉でも食ってみたいもんだ。ヒツジはうまいからなあ」
と言いながらボロという名前のオオカミのボスは舌なめずりをしました。
「ヒ、ヒツジを食べるって…」
「なに言ってんだ小僧、お前オオカミのくせにヒツジを食ったことねえのか? いいもの食ってねえんだな」
「だって…!」
 自分がヒツジと一緒に暮らしていると言いかけてウルは口をつぐみました。もしそんな事がわかったらこの連中はきっとそこへ連れて行けと言うに決まっています。
(困った、どうすればいいんだ)
 ウルは頭を抱え込みました。
(とりあえず草原に帰ろう)
そう考えたウルはボロたちにお礼を言うと、慌てて草原の方角へ向けて山を下りました。 

 もう少しで夕食という時にウルは草原に戻ってきました。ウルを見つけたルイはウルに駆け寄ると山の話をせがみました。しかしウルは疲れたと言って何も話してくれません。夕食の時もいつも食いしん坊のウルがほんの少しフルーツをかじっただけでご馳走さまをして自分の部屋に入ってしまいました。
 ルイはウルの事が心配になりましたが、きっといっぱい走って疲れたんだろうと思い、その夜はそっとしておく事にしたのです。
ウルは疲れてなんかいませんでした。ただ、今日自分が知った事、見た事、そして自分がした事を考えるとウルはルイたちと話す事が出来ませんでした。
 自分はヒツジなんかじゃなく、よりによってあの恐ろしいオオカミという動物だった。ウルの頭は混乱していました。自分が知らずにブタの肉を食べてしまった事を後悔し、そして、それ以上にその肉をおいしいと思った自分が許せなかったのです。
 その夜ウルは夢を見ました。ヒツジの肉を食べている夢でした。それがブタと比べものにならないくらい美味しいのです。食べ終わって家に帰るとルイとお母さんがいません。ルナに聞いてみるとさっきオオカミに食べられちゃったと言って涙をいっぱいこぼしました。そこでウルは夢から覚めました。
「何てことだ。こんな夢を見るなんてどうかしている。僕はどうすればいいんだ」
 結局眠れないまま朝になりました。ウルは心を決めてお父さんとお母さんのところへ行きました。
「お父さんお母さん、お話しがあります」
 昨夜から元気がなかったウルの事を心配していたお母さんはウルの態度を見ていやな予感がしました。
「実は昨日、僕は内緒で西の山の方まで行ったのです」
「ウル、お前…」
 お母さんは目の前が真っ暗になりました。ついにウルが秘密を知ってしまったのです。
「僕は、僕はそこで自分がオオカミだということを初めて知りました。そして知らずにとはいえブタの肉を食べてしまったのです。それだけじゃありません。その肉を美味しいと思ったんです。時々一緒に遊んでいる仲間なのに僕はとんでもないことをしてしまったんです」
 ウルはくやし涙を抑える事が出来ませんでした。こんなに泣けるのかと思うくらいとめどない涙がウルの目から流れ落ちます。
「お父さんお母さん、僕は家を出ます。自分がオオカミだと知ってしまったからにはもうここにいる事は出来ません」
 少しの沈黙の後、お母さんが静かに話し始めました。
「ウル、お前の気持ちはよくわかります。お父さんもお母さんもいつかはこの日が来る事をわかっていました。私たちにお前を止めることは出来ない。でも…いつでも、いつまでも、どこにいてもお前は私たちの子供だからね。それを絶対に忘れないでいてね」
 そう言うお母さんの顔も涙でお化粧がグチャグチャになっていました。
「ウル、お父さんもこの日が来なければいいとずっと思っていた。だが自然には逆らえない。お前にはお前の進む道がある。頑張るんだぞ。いつでも帰りたくなったら帰ってきなさい。お前は私たちの大切な息子だ。今までもこれから先もずっとそれは変わらない」
 お父さんも泣きそうでしたが涙をこらえているのでしょう。声がふるえて
います。
「それじゃ、お父さんお母さんさようなら。ルイたちには会わずに行くよ。会うと出て行けなくなるかも知れないから。じゃあ元気で…」
 ウルはくるっと方向転換すると、全力疾走で昨日行った山とは反対側の東の山を目指して走っていきました。お父さんとお母さんはウルの姿が小さくなって見えなくなるまで手を振りつづけていました。