北へふたり旅 21話~25話
摘葉(葉のかき取り)も重要な作業。
下の方の茶色くなった老化葉は、少しずつ取り除いていく。
重なり合ったり、風通しが悪くなっている大きな葉も、切り落とす。
小さな新葉や新芽に、光を当てるためだ。
この際注意することがある。葉をとりすぎて素っ裸にならないようにする。
遠くから眺め、上から下までどの位置にも重ならない程度に
葉が展開しているのが、理想になる。
これらの作業を、3人のベトナム実習生へ教えこんでいく。
しかし。これが至難の連続。
まず、言葉が的確に伝わらない。
彼らの日本語は日常のあいさつに毛がはえた程度。
おはよう。こんにちは。こんばんは。は理解できる。
しかし。これに「暑いですねぇ」「お寒うございます」をくわえると、
あいさつとして通じない。
葉を全部取れ、は理解できる。
しかし。「すこしだけ葉を取れ」や「もうすこしよけいに葉を取れ」
はわからない。
「臨機応変に葉を取れ」などと指示すれば何のことだか、かれらは
パニックになる。
主枝から出ている葉も、子つるから出ている葉も区別できない。
彼らの目から見れば葉はぜんぶ同じ、ただの葉だ。
収穫がいちだんらくした週末。全員で葉の整理をすることになった。
午後2時。Sさんが様子を見に来た。
ベトナムの3人が作業している様子を点検していく。
「トン。遠慮がちだな。まだ葉っぱが混んでるぞ。
もうすこしよけいに欠いてもいいなぁ。
そうだな。あと2~3枚、すこし混んでいるところは
4~5枚欠いてもいい。
おれは会議があるから出かけるが、しっかり頑張ってくれ。
じゃな。よろしく頼んだぜ」
ポンとトンの肩を叩き、Sさんがビニールハウスを出ていく。
日本人のパートならこの程度の会話で、Sさんの指示の真意を理解する。
しかし。初歩の日本語しか理解できない彼らに、いったいどこまで
伝わったかまったくわからない。
やがて・・・とんでもない事態が発生する。
(25)へつづく
作品名:北へふたり旅 21話~25話 作家名:落合順平