北へふたり旅 21話~25話
お大事にと医師に笑顔で見送られた。
妻はSさんの農場を、3ヶ月ほど休むことになる。
「そうか。たいへんだねぇ、カミさんも。かまわねぇさ。
実はよ。もうひとり、ベトナムが来ることになった」
初耳だ。
妻の付き添いで4日休んでいる間に、いきなりすごいことになっていた。
「いつからです、ベトナムの3人目がくるのは?」
「明日からさ」
「えっ・・・」開いた口がふさがらない。ずいぶん急な話だ。
Sさんが「訳ありさ」と笑う。
「どんな訳ですか?」
「雇い入れ先の農家がきゅうに病気になった。
余命半年だそうだ。
そんなわけでさ。きゅうきょ俺んところへ話が舞い込んできた」
「いきなりベトナムばかり、3人ですか・・・
賑やかになりそうですね」
「実はよ。もうひとつ訳があるんだ。
こんど来るのは、大学出のインテリだ。
頭がいいと思うだろう、普通は。
ところがよ。あやしい日本語しか話さないんだ、こいつが。
面接のときも、とちゅうからまったく話が通じなくなっちまった」
「だいじょうぶですか。そんなことで・・・。
断れないのですか。この話」
「頼まれると断れねぇのが俺の性分だ。
まかせろと、大見えをきっちまったからなぁ。
なんとかなるだろうよ。きっと、そのうちに。たぶん・・・」
さきに来た2人のベトナムも、ようやく仕事に慣れてきた。
しかし。日本語が通用しているわけではない。
意思の疎通に、まだまだおおくの問題がのこっている。
おおまかにはわかる。しかし、細かい部分で理解が食い違う。
そんな状況だというのに、さらにもうひとり、ベトナムがふえるという。
(大丈夫か、ホントウに・・・)
(22)へつづく
作品名:北へふたり旅 21話~25話 作家名:落合順平