群青の夏
その日もいつものように誠は、佑介と翔太と三人並んで歩いて帰った。いつもは英治も一緒なのだが、英治は、今日は体調が悪いそうで、午後の練習を休んでいた。
「井岡先輩、東商行くってもう返事したんスか?」
「ん、いや、まだ、ちょっと……」
「えっ、じゃ、東商行かないんスか?」
「いや、まだ行かないって決めたっていうわけじゃないんだけど……、ほら、東商って、あんまり偏差値とかは良くないから……」
歯切れの悪い返答をして、その話題には触れてくれるなという事を暗に示してみたが、翔太はそういう事に気が回るタイプではない。
「絶対行った方がいいっスよ。いくら成績良くたって、ガリ勉より名門野球部のほうが絶対モテますよ。オレなら迷わず東商行くけどなぁ」
「さっきからゴチャゴチャうるせぇなぁ。何が迷わずだよ。お前には最初っから迷えるほどの選択肢なんかねぇだろ。人の進路より、自分の心配しろよ。人の事心配できる立場か? お前の成績じゃどこの高校も引っかかんねぇだろ」
「ちょっと小川先輩、いくらなんでもひどくないスか?オレがバカなのは認めるけど、井岡先輩はともかく、小川先輩は言うほど頭良くないでしょ」
翔太の言うように、佑介も翔太程ではないが、成績の方はあまり芳しくない。
「あー、お前先輩に向かってそういうこと言っていいの?」
佑介の太い腕が、翔太の首をがっちりとロックした。翔太が、大げさに顔を歪めながら佑介の腕を手で叩き、ギブアップのゼスチャーをする。佑介が少し力を緩めると、翔太はするりとその腕をすり抜けた。
「ったくもう、すぐ暴力にうったえるんだから。こんな人と一緒になんて帰ってらんないっスよ。オレ、今日はもうこの辺で失礼しますから」
そういって翔太は、帰り道とは違う方向へ歩き出した。
「どこ行くんだよ。お前ん家、そっちじゃないだろ」
誠が尋ねると、翔太は当然のように言い放った。
「オレ、今日寝坊して遅刻しそうになったから、チャリで来たんスよ。そんで公民館にチャリ置いて来たんで。んじゃ、おつかれーっス」
「あのバカ。そんなことして学校にバレたらただじゃすまねえぞ」
そう言って翔太は、公民館の方へ小走りに消えていった。
「佑介は……、もう親とかにも東商行くって言ってあるの?」
「えっ? あ、うん。翔太ほどじゃねぇけどさ、俺も一般受験して行けるとこなんてたかが知れてるからな。だったら、好きなことやりたいじゃん」
「そっか……」
それからは、どうにもよそよそしい雰囲気になってしまった。お互いに、その気まずさを紛らわすように言葉を搾り出すのだが、会話が続かず間が持たない。やがてお互いに黙り込んでしまい、お互いの家の分岐点までは、共に下校しているというより、ただ一緒に歩いてるだけ、という状態だった。
「じゃあ、俺こっちだから。また明日な」
「うん」