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異次元の辻褄合わせ

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。ご了承願います。

                もう一人の自分との葛藤

 中学時代から、友達をあまり作ることのなかった鈴代あいりは、三年生になって一念発起し、いきなり受験勉強を始め、地元でも進学校と言われる青林女子高に入学した。数学が好きなので、理数系に思われがちだが、科学系の学問は苦手だった。化学も生物も苦手だったが、特に成績が悪かったのは物理学で、先生からも、
「数学が得意なのに、どうして物理の成績がこんなに悪いんだ?」
 と言われ、本当によく分からないという顔をされた。
 だが、あいりとすれば、
――私には分かっているわ――
 と思っていたので、先生に不思議だと言われても、別に気にすることはなかった。
 ただ、あいりも数学に関しては中学二年生の頃までは苦手だった。成績が急に上がったのは二年生の後半からで、数学の先生からは、
「何か吹っ切れたものがあったんでしょうね」
 と言われていたが、それに関してはあいりの意見も同じだった。
 あいりが数学が苦手だったのは、その根拠は小学生の頃に遡る。
 あいりは小学生の頃に算数が好きだった。成績とすれば、三年生の頃まではそれほど目立つものではなかったが、四年生になってから、急に成績が伸びた。
 算数を好きになったのは、三年生の頃だったのだが、その成果が現れたのが四年生になってからだというだけのことだった。
 何かのきっかけがあったのはあったのだろうが、その理由はあいりには分からなかった。まだ小学生の自分に、そんな難しい理屈は分からないとあいりが思っただけで、いったん好きになってしまうと興味津々になるあいりには理屈など関係なかったのである。
 他の科目は平均的にできた。そんなあいりを彼女の母親は誇りに思っていたようだ。
「何かに突出する必要などないけど、何でも普通にできる女の子になってほしいのよ」
 と常々口にしていた。
 特に父親に対しては声を大にして話していた。
 母親はいわゆる、
「教育ママ」
 というわけではなかったが、娘には、
「無難に人並みの幸福をつかんでほしい」
 と思っていたようだ。
 確かに無難な生活が一番いいのだろうが、中学時代のあいりは、反抗期という意識の中で母親の意見に曖昧な疑問を抱いていた、
 逆らうまではなかったのだが、それは明確な逆らうだけの理由が思いつかなかったからだ。
 あいりは知らなかったが、母親も大学時代に絵画に嵌った時期があったようだ。彼女には自分なりのこだわりがあり、プライドのようなものがあった。
「人と同じでは嫌だ」
 と思っていた。
 冒険心も旺盛だったような気がする。今となっては母親もその頃の心境を思い起こすことはできないが、絵画を目指していた自分の心境を思い起こすことはできる時期はあったようだ。
 だが、母親と同じサークルに所属し、彼女の作品に傾倒していた人が後輩にいたのだが、彼女は母親の作品に傾倒しながら、なかなか自分が思うような作品を描くことができないことへの憤りを感じているのも事実だった。
 後輩は母親への尊敬と嫉妬の間でしばらく悩んだ結果、母親の作品をマネして描くことを選んでしまった。
 彼女は自分オリジナル作品を描くことは人並み程度であったが、人の作品を模倣することに関しては長けていた。彼女は母親の作品を模倣した作品をコンクールに出品した。母親も元々のオリジナル作品をコンクールに出品したが、後輩は別のコンクールに出品することで、せめてもの配慮のつもりでいた。
 しかし、実際に合格したのは模倣した方の後輩の作品で、母親の作品は佳作にもひっかからなかった。
 別々のコンクールだったので一般的に批判されることはなかったが、後輩の方からすればわだかまりが残ってしまった。
 母親の方とすれば、
「別のコンクールなので、別に問題ないんじゃない?」
 と言っていたが、その言葉がいかにも他人事のようで、余計に後輩に後悔の念を植え付ける形になった。
 母親の方としても、そんな皮肉な言い回しをしなければよかったのだろうが、言葉にしてしまったことで感じなければいい余計なわだかまりを感じてしまったのだろう。
 そう思うことで母親も後輩もサークル内で浮いてしまい、サークルからは去らなければいけない状況になってしまった。
 二人はどちらからともなくサークルから去ったのだが、それがちょうど同じ時期だったことで、そのことを後から知った母親は、さらに落ち込んだ。
――誰にこのわだかまりをぶつければいいんだろう?
 と母親は思っていた。
 わだかまりを感じている間は、自分が何をしたいのか分からずに、毎日を無為に過ごしていた。そのうちに感じたのは、
――世の中を無難に生きることなんだわ――
 と感じた。
 自分をいかに他人事のように感じられるかということを考えると、無難な生き方という発想が無理なく浮かんできたのだった。
 彼女の後輩とは、合うことはなかったが、彼女は大学を卒業してから就職した会社で知り合った先輩と普通に結婚したようだ。
 結婚まではあっという間の出来事で、入社半年で結納まで済ませたということだった。
 夫になる人から、
「結婚したら専業主婦になってほしい」
 と言われ、後輩は仕事に未練があったわけではなく、簡単に承諾した。
 絵に描いたような専業主婦までの経験だったことで、彼女こそ、
「女としての平凡だけど、最高の幸せを手に入れた人」
 という印象を与えて、そのまま会社を寿退社ということになった。
 あまりにもあっという間の出来事だったので、嵐のように過ぎ去った人間が人の記憶に残るはずもなく、彼女の存在を二年もすれば事務所の中で覚えている人はほとんどいなくなっていた。話題に上ることもなかったので、本当に嵐のような出来事だったとしか言えないだろう。
 母親はもちろん、そんな後輩のことを知る由もなかったが、実際には誤解なのだが、まさか自分の野望のためなら何でもすると思っていたような彼女が、そんな平凡な生活をしていて、同じような無難な生活を望んでいるような女になっているなど思ってもみなかった。完全に皮肉なことである。
 母親が結婚したのは、自分が思っていたよりも少し遅かった。
「まだまだ大丈夫よ」
 と言われていた年齢だったが、三十代に入ってのことだった。
 三十代に入っても結婚しない人はたくさんいたので、別に焦りもしないと思っていたのだが、ある時急に気になり始めた。
 一度気になってしまうと、止まらないのが母親の性格だった。まわりを他人事だとずっと思ってきた反動なのか、それとも持って生まれた性格によるものなのか自分でもハッキリとは分からなかったが、少なくとも他人事への反動であるということは意識するようになっていた。
「今までの自分の人生は反動によって築かれている」
 と思うようになったのは、結婚してからだったが、結婚前にも時々そう感じたことがあったが、そんな時、決まって急に何か我に返ったようになることから来ていたのだった。
 結婚してから少しの間は、子供がほしいとは思わなかった。旦那になった人も、
作品名:異次元の辻褄合わせ 作家名:森本晃次