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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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最後の鍵を開く者 探偵奇談21

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しらせ



帰宅して洗面所で手を洗う。鏡の前で自分の顔をじっと眺め、伸びた前髪はもう耳にかけられるくらいになっていることに気づく。郁(いく)は自分の髪に触れるたび、須丸瑞(すまるみず)のことを思いだしている自分を意識し、少し驚いた。自分の生活のほとんどを、彼に占められているのだ。

連休前半は友達と遊び、明日以降は予定なし。両親は遠い母の実家に帰省中。弟はバスケットチームの合宿で県外に行っている。弓を引きにいこうか、それとも。

(…須丸くんどうしているかな)

瑞は京都の実家に帰省中だ。大学見学を兼ねた伊吹もともに。休みは嬉しいけど、しかし好きなひとに会えないのは寂しい。早く学校が始まればいいのになんて、今までそんなこと思ったこともないのに。

(夕ご飯どうしよう…作るの面倒…)

そんなことを思いながらリビングに向かう。テレビのリモコンを手にしてソファーに座ろうとしたそのとき。


「あ…」


一瞬だけ、瑞の匂いがした。あのイチジクの香水の香りだ。いつも瑞がまとう香り。特別な匂い。他の人に真似されたくない、と頑なにどこのブランドの香水なのかを教えないという彼の態度が、女子の間では有名だった。

(いまの絶対須丸くんの匂いだ)

それははっきりと鼻腔をかすめ、意識した瞬間に霧散した。そのとき郁の心に沸いたのは、好きなひとの香りに胸が躍るというロマンチックなものではなく、胸騒ぎに似た焦りだった。虫の知らせ、のような。

にわかに不安になる。スマホを手にしたのは殆ど無意識だった。声を聞かなくては、そんな思いが沸き上がってくる。

(でも当然電話しても…なんて説明すれば…)

すこし躊躇ったのち、「先輩も須丸くんも元気?」とあたりさわりのないメッセージを送った。いつもなら、送信するまで何度も見返してドキドキしているのに、今回は違った。何でもいいから、元気だという確証が欲しい。

(何だろう、これ…嫌な感じがする…)

心臓の鼓動が、早くなるのがわかった。