北へふたり旅 16話~20話
「ご覧のように、固定もうまくいっています。
われながら快心の手術です」
メガネの奥の目がやわらかく笑う。
「明日からリハビリがはじめられるでしょう」
「えっ・・・速すぎないですか。明日からなんて」
「早くはありません。
だいいち奥さんは、早くゴルフしたいと渇望しています。
カルテを書きますので、リハビリの名人に奥さんを見てもらいましょう」
「はぁ・・・わかりました。よろしくお願いします。先生」
「承知しました。
それからですね。それと別に、もうひとつの問題が発覚しました」
「もうひとつの問題?・・・なんでしょうか、いったい)
「奥さんは骨粗鬆症(こつそそうしょう)です。
骨年齢で言うと、70歳なかばです。
手のひらを突いたとき、かんたんに折れてしまったのも、この
骨粗鬆症のせいですね」
「骨粗鬆症ですか・・・」
「危険ですね。いまのままでは。
大丈夫です。
月にいちど、注射していくことで改善していくでしょう」
「おなじ食事をしていますが、わたしの骨はもろくありません」
「食生活だけが原因ではありません。
本人がゴルフに生きがいを感じているようですので、このさいですから
並行して、骨粗しょう症を治療していくことをおすすめします」
「はぁ・・・」
たしかに骨がもろくなっていたのかもしれない。
斜面で妻が滑ったとき。妻の手がかるく地面に触れたように見えた。
それが折れてしまったのは、気付かないうちに、妻の骨が
もろくなっていたせいかもしれない。
(若い、若いと思いこんできたが、いつの間にかちゃんと
歳をとっていたんだな。俺も妻も・・・)
(20)へつづく
作品名:北へふたり旅 16話~20話 作家名:落合順平